“前半はネタ振り、後半は壮大なオチ”というスタイルで知られるシベリア少女鉄道。名前はよく聞いていましたが観るのは今回初めてです。開場前からかなりの行列ができていて、さすがに有名どころだなと思いました。
東海村の臨界事故をイメージしていると思われる原子力関係の事故の関係者、被害者による報復テロ、当時の官僚の上層部による情報の隠ぺい、総理大臣の関与‥‥。などを織り交ぜたエピソードの羅列が前半のネタ振りとなり、後半のオチへと繋がっていきます。オチはいわば二段になっており、チラシに描かれた落語家の衣装が1段目のオチの伏線、スラムダンクというタイトルが二段目への伏線になっています。
役者の数が限られている小劇場演劇では、一人の役者が複数の登場人物を演じる「一人多役」がよく行われますが、この作品の1段目のオチはそれを逆手にとったジョークになっています。異なる役を演じる場合は舞台の袖で素早く衣装を替えて再登場するのが普通で、特にこれを極端に短い時間で行うのを「早着替え」などと言います。
「スラムダンク」でも最初のうちは普通に着替えているのですが、途中から着替えが半端になっていき、舞台上を歩きながら衣装を替えたりし始めます。それも次第に拍車がかかって着替えをまったくしなくなり、ついには同じ役者が演じている二人の登場人物が直接会話するシーンに到達します。まさに落語の状態です。
これがオチ?と思ったら真打ちとも言える2段目、バスケットゴールが現れてバスケの試合が始まります。体の動きはバスケの選手であると同時に、それまで演じてきた物語の中での仕草でもあるというもの。そしてセリフは前半の物語の延長にあります。1段目のオチが「一人の役者が複数の役を演じる」ことをネタにしたジョークであるのに対し、2段目のオチは「ひとつの演技にふたつの意味を持たせる」ことを狙ったやや高度な芸と言えるでしょう。
しかし1段目のオチは「内輪ウケ」ギリギリではないでしょうか。一人多役は本来、役者数が不足した場合の苦肉の策として行うものであって、観客としては一人一役の方が観やすいのは明らかです。映画やテレビドラマではありえないこのスタイルが小劇場演劇ではよくあるということを知らなかったら、あまり面白くもないと思います。
2段目はよく構成できたと思います。ただ、視覚的にはバスケの試合になっているため、セリフのみで続けられる物語がまったく頭に入ってきませんでした。物語は筋が通っていたのでしょうか。それすらわかりません。
最も残念なのは終わり方です。この劇団はいつもなのかもしれませんが、あまりに唐突に幕が降りてしまい、余韻を味わうことができませんでした。観客にとっては劇場に足を踏み入れてから外に出るまでの全てが作品を構成しているという意識を持って演出してもらいたいものです。
2005/10/15-20:00
シベリア少女鉄道「スラムダンク」
シアターサンモール/ウェブ予約3000円
作・演出:土屋亮一
出演:前畑陽平/藤原幹雄/吉田友則/横溝茂雄/篠塚茜/出来恵美/内田慈/大坂秩加/佐々木幸子
2005年10月15日
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