おちぶれたサーカス一座の面々が、小屋の跡地に集まっている。その場所はやがて化学工場が建設され、彼らは追い出されるだろう。旅公演先で拾った知恵遅れの少女エリの無邪気な求めに応じて、ピエロのジョジョがおとぎばなしを語り始める。鏡の国の王女エリと、明日の国の王子ジョアンの物語を。
『サーカス物語』は私が生まれて初めて読んだ戯曲だ。小学生の頃だからもう二十年以上前、『モモ』や『はてしない物語』でミヒャエル・エンデ作品が好きになった私は、彼の戯曲にも手を出した。この『サーカス物語』の他、『ゴッゴローリ伝説』や『遺産相続ゲーム』も読んだ。だからこの公演のチラシを目にした時は迷わず観劇を決めた。台本しか知らない作品をぜひとも舞台上で見たかったからだ。
戯曲を読んだとはいえ昔のことだからほとんど覚えていないと思ったが、意外によく覚えていることに気付いて驚いた。小学生の頃に覚えたことはなかなか忘れないようだ。ストーリーはもちろん、登場人物の名もあらかた覚えていたし、部分的にはト書きまで思い出した。
さて、そういう“物語はラストまで知っている”状態で観劇してどうだったかと言えば、かなり満足できるものではあったがもう一歩というところだ。演技、演奏、舞台美術などはなんら不満がない。エリ役の市川梢、ジョジョ(道化)役の村島智之、それとアングラマイン役の笠木誠が特に良かった。私が見たのは今回最初のステージだったから、土日にはもっと良くなっているかもしれない。
ただ、サーカス団員としての芸はもうちょっと確実に決めてほしかったのと、生演奏と役者のセリフが重なる場面でセリフがよく聞こえなかった点がマイナス。セリフについては一部マイクも併用していたが、それでも辛い時があった。演技と演奏それぞれについては全く不満がないだけに、なんとか改善してほしい。芸については本物のサーカス団員でないので仕方がないとは思うが、芝居として多少のズルをしてもいいいから成功させてほしかった。あと細かい部分では、暗転がやや長い印象を受けた。
逆に言えば不満点はその程度であり、あとは満足できた。
にしすがも創造舎は廃校となった中学校の体育館を舞台として活用しているもので、この作品にはうってつけだろう。高い天井はまるで屋外のような開放感があり、無造作に組まれた足場が建設機械を象徴。プロローグとエピローグの荒涼とした雰囲気を劇場全体で表現するかのようだった。
2005/10/07-19:00
アートネットワーク・ジャパン+Ort-d.dプロデュース「サーカス物語」
にしすがも創造舎/前売券3000円
原作:ミヒャエル・エンデ
翻訳:矢川澄子
演出:倉迫康史
出演:石川正義/市川梢/三橋麻子/笠木誠/村島智之/堂下勝気/伊澤勉/沖田みやこ/宮光真理子/小林紀貴/村上哲也/あきやまかおる/綾田將一/小田さやか/金子由菜/さとうまりこ/平佐喜子/谷口直子/凪景介/渡辺麻衣
2005年10月08日
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