妻と愛人を殺して死刑になった男。彼には当時赤子だった娘がいた。両親の記憶を持たずに育った彼女はやがて大学生となり、父の最期を見届けた男性に話を聞くために仙台を訪れる。
当日配付されたチラシの中には死刑制度廃止を目指すアムネスティのものも含まれていたが、芝居自体は特に死刑制度の是非を問うものではなかった。独房に一人座りながら女達の亡霊と対話する死刑囚の姿と、父の話を求める娘、話したがらない元看守とその家族の対話。そして事情を知る娘の友人達の葛藤などが淡々と描かれる。
旅行鞄や机など、使われる道具の多くが始めから舞台上に置かれており、使われた物から順に消えていく。それと並行して、様々な立場の人物の様々な感情と記憶が表現される。その様子はまるで物質が物語に置き換えられていくようで、両者の総和は常に一定だったのかもしれない。けれど観る者の気持ちは明らかに後者によって揺さぶられるものであって、胸が苦しくなることが多々あった。
9人の登場人物は誰を主役に据えても良いほど多様な立場であり、誰に感情移入することも可能だ。ただ死刑囚やその家族に投影できるほど人生経験豊かではないので娘の先輩が一番親しみを覚えた。恋人志望で東京から仙台まで追いかけてくる彼は、お調子者で勝手気ままだけど真剣で筋が通っている。ああいう風になりたいものだ。
余談ですが、仙台は私が学生時代に暮らした街です。八木山というのは私のアパートがあった所なので、思いがけず懐かしい地名を聞いて驚きました。作中で先輩が語る「八木山の動物園」は通学路の途中にありましたが、中には一度も入らなかったのでその“檻”が実在するのかわかりません。どうなのでしょう。
2005/10/02-17:00
風琴工房「ゼロの柩」
シアタートラム/前売券3200円
作・演出:詩森ろば
出演:宮嶋美子/小高仁/松岡洋子/篠塚祥司/羽場睦子/笹野鈴々音/椎葉貴子/好宮温太郎/明樹由佳
2005年10月02日
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