名古屋から首都圏に居を移して、ちょうど1年が過ぎました。そこで名古屋と東京のチケット代を比較して言わせてもらうと、同じクオリティの作品であれば東京は名古屋より千円高いというのが実感です。六角形さんの評価では二千円の公演は手を出さない対象のようですが、名古屋で二千円なら東京の三千円に相当します。
仙台での観劇は10年ほど前の経験なのであまり比較できませんが、名古屋とそう変わらなかったと思います。また、高崎さんの表によれば福岡は名古屋とほぼ同等のようです。ちなみに名古屋(中部地区)の現状はアキさんのサイトを見ればわかります。
やはり東京だけが高いのだと思います。
東京の演劇はなぜ高いのか。劇場代や練習場代をはじめ、物価が高いのは大きな理由でしょう。私は劇団関係者ではないので実際の相場は知りませんが、家賃などから推測して東京の劇場費が高いのは理解できます。
では、そのコストって観客が負担すべきものでしょうか? 東京の劇場が高いのは、突き詰めれば立地条件が良く集客しやすいからです。安い劇場が使いたければ都心を離れればいいはずですが、それをしないのは集客がしづらくなるからでしょう。だとしたら、高い劇場を使うことの受益者は劇団であって観客ではありません。単純にコストがかかったからチケット代を上げるという発想は安直すぎます。
チケット代は、芝居が観客に提供する価値で決まるものでなくてはなりません。「価格=コスト+利益」という図式は間違っており、「利益=価格−コスト」が正解です。極論すれば、芝居の観客はあくまでも芝居の価値に対して代金を払っているのであって、その芝居を作るためにどれだけコストがかかったかなど、知ったことではないのです。千円高いチケット代を取るからには、千円分優れた作品を提供する義務があります。千円分余計なコストがかかったから、では理由になりません。
ただ、東京が高いというのは相対的な話で、逆に地方の演劇が安すぎるという見方も可能です。実際、名古屋で見た二千円の芝居に対して「五千円払ってもいい」と思ったこともあります。地域における相場があるため急に上げることは難しいかもしれませんが、価値があるものを創ったなら相応の価格を付けることもまた大事です。
‥‥二千円の芝居で魂を揺さぶられるってのが、小劇場フリークとしては一番嬉しい瞬間ですけどね。
東京だけが高いのはその通りです。理由のひとつは物価が高いため、ふたつ目は人口(観客)の多さを当てにした創る側の強気の価格設定による負担能力の高さ、三つ目は創る側の供給過剰による劇場側の強気の価格設定です。
価格の関係式については、私は「価格 - 利益 = コスト」が正しいと思います。対象とする観客の財布の具合と、作る側の望む利益から、負担できるコストを判断する。それが望めないのであればそもそも手を出さない。とはいえ、芝居市場というのはいろいろ特殊ですから、そういう発想を持った人は、特に小劇場には少ないと思いますが。
観客にとってはコストなんて知ったこっちゃない、というのはその通りです。ただ、需要さえあるのであれば、千円高いクオリティに三千円の上乗せをしたって構わないわけです。逆に需要がない場合は、千円高いクオリティでも五百円の値下げを余儀なくされるわけです。需給の経済原則で、e+の特チケが代表例ですね。個人的には、安くてまずい芝居は時間と金の純粋な無駄、それよりは高くても応分の満足を得られる芝居のほうが有意義という価値観でおります。
魂を揺さぶられる芝居というのはチケット代に関係なく存在しますが、その数はチケット代に関係なく、おそろしく少ないです。ただ、それなりに出来のいい芝居の割合というか数は、値段が高いほうが多いです。小劇場フリークである#10さんも、一時期は高額芝居に手を染めていただきたいな、というのが、最近小劇場をほとんど観ていない私の希望です(笑)。