たった一日で、世界が変わるわけないじゃない。(チラシより)
2001年9月11日、あなたは何をしていましたか。
もしもその日、マンハッタンにいたとしたら、どんなふうだったと想像しますか。
知っているのは、あなただけでいい。
決して報道されることのなかった、その日の出来事。
『天皇と接吻』から8年、アメリカと日本の「現在」が交錯する。
それが何のビルだったにせよ、WTCはテロの標的となったビルとして人々の記憶に残ることでしょう。21世紀は、我を忘れて報復に走ったアメリカが泥沼にはまっていくシーンで幕を開けることになったわけです。
その日私は会社でいつも通りに働いていて、帰りがけに同僚から「アメリカで飛行機がビルに突っ込んだらしい」との話を聞きました。見てはいけないものがあると思い、それから数日間は一切テレビもつけず新聞も読まないようにしていました。
現地には日本人もたくさんいたので、その目を通じた報道もあったことでしょうが、私は見聞きしていません。あれから6年余り。時事から歴史へと姿を変えて語られるようになって、そろそろ聞いてみてもいいかと思い始めました。
さて、燐光群の舞台です。この劇団がこういうテーマを扱う時は、重く抑制を効かせた筆致で強くメッセージを放ちます。決してイデオロギーに走るわけでなく、忘れてはいけない何かを語りかけてきます。
テロは国際政治や軍事情勢というマクロな社会現象の結果として現れるものですが、そこに直面した人々の生活や人生つまりミクロな社会にも根本的な影響を与えます。遠く海の向こうにいた我々が政治的背景をうんぬんしている時、マンハッタンの人々は目の前に倒れている人を助けていたわけです。
マクロとミクロの両方を視野に入れるのは難しいことですが、それは常に同時進行するものであり、どちらも忘れてはいけない。そしてエピローグの言葉にあったように、別の国でもっとひどいことが起きてもあれほどには報道されないという事実もあることを、思い起こすことも必要なのでしょう。
伝えられたことがあり、伝えられなかったことがある。もし自分がそこにいたらどうしていただろうかと、謙虚に思い描くことが理解する最初のステップだと、この芝居は言いたかったのではないかと想像します。
2007/11/10-19:00
燐光群「ワールド・トレード・センター」
アイホール伊丹/当日券3600円
作・演出:坂手洋二
出演:中山マリ/川中健次郎/猪熊恒和/大西孝洋/江口敦子/樋尾麻衣子/向井孝成/久保島隆/杉山英之/小金井篤/秋葉ヨリエ/安仁屋美峰/阿諏訪麻子/伊勢谷能宣/嚴樫佑介/吉成淳一/西川大輔/武山尚史/鈴木陽介