人と人との間に境界線が引かれる。勝ち組負け組などと煽るマスコミによって、或いは収入の高低を自己の評価軸と考える人びとによって。今に始まったことではないにしろ、その境界線は、以前にも増して一直線に、徒競走のゴールラインのような鮮やかさで、緩やかに進もうとする者を阻む。(チラシより)
民主化以前の中国で「ウサギとカメ」の寓話を子供たちにしたところ、「どうしてカメは、眠ってしまったウサギを起こしてやらなかったのか」という声が大多数を占めたらしい。嘘か誠か、真偽のほどはわからない。あの寓話はウサギとカメをひとつのフレームに収めて語るわけであるが、その遥か後方にカタツムリが這っていたとすればどうだろうか。現代の語り部たちはすっかりカタツムリのことなど忘れてしまった。長距離走の最終走者をじっくり寄り添うような視線を持ちたいのだ。「越境する蝸牛」の所以である。
舞台は20年後の日本にある韓国料理店。自衛軍が朝鮮半島に派兵される中で開店休業を余儀なくされている。家族は在日コリアンの店主と、日本人の先妻との子供である長男、在日の後妻との子である長女、そして店主の父親。
長男は成人しても引きこもり。長女は高校生なのに妊娠し、相手の男はちょっと嫌韓気味。店主の妹の婚約者は警官。飲んだくれの後妻は金に困ってとんでもないことをしでかす。
それと平行して、朝鮮派兵を推進した首相が近くのファッション専門学校を視察に来ることになる。ところが首相がファッションを否定する通達をしたことから、その学校の教師と生徒(韓国料理店の常連)は何やらたくらみはじめる。
アフタートークで岩崎氏自身が語っていたように、あらゆる問題を全部詰め込んだような舞台。ひとつの家族にこれほど集中することはないだろうが、ひとつひとつのテーマは(デフォルメされているが)必ずしも荒唐無稽ではない。だから全体としてのリアリティは軽く、細部は深いと感じた。
太陽族を観劇するのは初めてだが、どうやら役者は女性の比率が高いらしい。そのおかげか、テーマの割には軟らかく明るい印象の舞台だった。
2007/06/30-19:00
劇団太陽族「越境する蝸牛」
精華小劇場/前売券3000円
作・演出:岩崎正裕
出演:田矢雅美/中西由宇佳/篠原裕紀子/前田有香子/岸部孝子/左比束舎箱/奇異保/韓寿恵/森本研典/小窪潔絵/米田嶺/南勝/佐々木淳子