
誰もが彼のプレイに夢中だった。(チラシより)
シルクのように滑らかなボールタッチ、一度ボールを持ったら離さない利己的なドリブルは悪魔的でさえあった。
敵も、味方でさえも彼に魅了された。将来を嘱望された選手だった。
イリヤ・ペトロヴィッチ。彼は、ある日突然消えた。
ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の終結から十年後、私はトヨタカップで来日するシーナ・アクシシャヤを迎えに成田空港に
車を走らせていた。あの、"やせっぽちシーナ"が今や代表のエースだというのだから、時間はあまりにも早く、未来は全く予想がつかない。
私は、彼と話すべきことがあった。あの日の、イリヤ・ペトロヴィッチと、彼を鼓舞するビリヤシュのサポーターの声と、そして私を含むあらゆる人達の傲慢についてだ。
ユーゴスラビアと言えば1984年にサラエボオリンピックを開催した国だが、それから10年も経たずして大規模な内戦に突入した。当時大学生だった私は、オリンピックが開かれた街が戦場になっている光景をテレビで見て、強く衝撃を受けた記憶が残っている。今時戦争なんてものは途上国で起こるものだと思い込んでいたのだ。
この作品は、ボスニアのある街で暮らすサッカー大好きな人々が、内戦により敵味方に分かれ、仲の良かった隣人が殺し合うようになる悲劇を描いている。内戦は単なる戦争以上に悲劇であることが突き刺すように伝わってくる。それでも私達は現実に起きたことの1割も理解できていないかもしれないが。
だが日本でもいまやそれは他人事でない。ユーゴスラビアですら、実際に戦争が始まるその瞬間まで、まさか戦争が始まるとはみんな思っていなかったというのだ。いつの日か私達が同じように語る日が来ないように、最善と思う選択を続けていかなくてはならないが、果たしてできているだろうか。
2014/11/02-19:00
Ammo「Lucifer」
d-倉庫/当日清算3200円
脚本・演出:南慎介
出演:荒川ユリエル/平佐喜子/三浦佑介/前園あかり/石塚みづき/鹿島ゆきこ/吉永輪太郎/さいとう篤史/斉藤太一/大春ハルオ/加藤素子/安田徳/大野由加里/井上千裕/水津亜子/信國輝彦
舞台監督:篠原絵美
舞台美術:照井旅詩
音響効果:ミ世六メノ道理
照明:阿部将之
AP:山邊健介
演出助手:杉山幸
制作:吉水恭子
小道具制作:Anz
デザイン・web管理:堀口節子