
63−0という歴史的大敗を喫した日本代表の悲しみと孤独は日本全土を覆った。(チラシより)
この悲しみと孤独が半年のうちに世相を変え日本は堕落した。一部の選手は闇屋となり、一部の選手は家庭崩壊に至った。永遠の愛を歌っていたJPOPの歌詞は、いつの日か浮気相手を想う歌詞へと変わり、かつての絶世の天才子役はショッピングモールで戦隊ショーの司会のお姉さんが唯一の収入源である。選手の元妻となった女は貧しい慰謝料にエステにも行けず鏡を見る度ため息をつく。
人間が変わったのではない。人間は元来そういうものであり、変わったのは世相の上皮だけのことだ。
ところでぼくたち何の試合に負けたのだっけ?
範宙遊泳の作品はリアルなストレートプレイの対極のような演劇的演劇なので、展開についていくだけでも苦労することが多い。前回観た「うまれてないからまだしねない」は正直まったく心に入ってこなかったので感想もほぼ書けなかったけれど、今回は比較的すんなり飲み込めた気がする。正しく理解しているかどうかはわからないが。
前作と同様、物理的には素舞台に近いがスクリーンに映し出された映像を最大限活用して不思議な世界を構成する演出手法。役者の動きは独特でダンス的。出演者が5人と少なく絞られていたこともあって、とても濃縮された印象を受けた。
描かれている世界はやっぱり日常から大きく逸脱しているのだが、それは近未来のような、あるいは並行宇宙なら私たちのすぐ隣にありそうな、リアルではないのにデジャブを感じるような世界だ。原案は坂口安吾の「堕落論」とのことなので、あとで読んでみようと思う。
余談だが今回はスクリーンと床にものすごく伸縮性に富んだ布が使われていて、その素材が何なのか上演中から気になってしまった。何かのはずみで切れ目が入ったら一気に敗れてしまいそうでハラハラした。
2014/08/16-14:00
範宙遊泳「インザマッド(ただし太陽の下)」
こまばアゴラ劇場/当日精算3000円
脚本・演出:山本卓卓
出演:武谷公雄/椎橋綾那/中林舞/名児耶ゆり/根本大介
原案:坂口安吾「堕落論」ほか
音楽:千葉広樹
美術監督:たかくらかずき
美術:中村友美
衣裳:藤谷香子
照明:山内祐太
音響:高橋真衣
舞台監督:櫻井健太郎
フライヤー写真:斉藤翔平
制作助手:柿木初美/鈴木千加/川口聡
制作:坂本もも
芸術監督:平田オリザ
技術協力:鈴木健介
制作協力:木元太郎