2014年01月12日

The end of company ジエン社「ステロタイプテスト/パス」

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はなす事を、はなして。
かく事を、かいて。
かけてしまった私たちを、はなして。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 指で、他人の背中を、なぞっている。
 
 ぐっと力を入れつつ、慎重に、間違えないように、しかも、鏡文字を書くようにだ。
 こうでもしないと、僕は目の前で背中を向いて呆然と座っている老人に、何らかの意思を伝える事が出来ない。
 天才芸人孔子先生の虜囚は続いている。孔子先生はあの日以来全身が麻痺してしまい、目を覚ます事は無いように当初は思われたが、悪魔医師は「触覚だけならなんとか分かる」ので「身体をゆすったり、揉んだりしなさい」といい残した。
 しかたなく、僕らは交代で孔子先生の身体をゆすっている。孔子先生を蝕んでいる麻痺が、身体を覆ってしまわないように。麻痺に覆われたら、人の身体は死ぬし、彼の脳内にある様々な情報も死ぬ。彼の脳内にある情報とは、この町が仮の町になる以前の町の情報でもあるし、稲作についての効率のいい収穫法でもあるし、「イソップ」と呼ばれる擬人化した動物たちの寓話でもあった。
 元芸人という経歴を持つこの孔子と言う男の口からこぼれ出た物語は、読み書きもろくに知らず、ただある為政者の思想書を丸暗記することしか教育を施されなかった僕らにとって、新鮮な驚きと面白さがあった。
 特に、イソップ物語は面白い。
 キツネは、すっぱいと言って、ぶどうを罵倒する。兎は亀と瞬発力を競っていたはずが、いつの間にか眠りに落ちる。アリは、歌うキリギリスを、冷徹に拒絶する。

「こうし せんせい おしえて ください わたしに せかいの ことごとくを」

 僕は孔子先生の背中を、指で文字を書き、なぞる。孔子は何かいいだけに、麻痺に犯された口を開く。
「馬を羨んだロバがいてな……そいつは……」
 こうして今日も僕らはイソップと呼ばれる擬人化動物物語群を孔子から引きだす事に成功した。
 ステロタイプテスト/パス――文字を正確に書くことができた時、僕たちは動物たちが巻き起こす、不思議で面白くて、そしてためになる物語を、この政治運動に疲れきった小さな老人の背中から、聞く事が、出来るのだ。
(チラシより)

2014/01/12-13:00
The end of company ジエン社「ステロタイプテスト/パス」
d-倉庫/当日清算3000円
作・演出:作者本介
出演: 安藤理樹/伊神忠聡/岡野康弘/小見美幸/川田智美/清水穂奈美/鈴木遼/矢野昌幸/山本美緒/湯舟すぴか/横山翔一/善積元音楽:あらいふとし
舞台美術:泉真  
舞台監督:鈴木拓 
照明:南星
音響:田中亮大  
演出助手:吉田麻美/岡本セキユ
宣伝美術:サノアヤコ 
書道協力:佳花
制作:池田智哉


posted by #10 at 13:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 東京観劇2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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