
「物語が、始まる」(チラシより)
ひとりぐらしのゆき子は、ある日、公園の砂場で男の雛形を拾う。雛形は成長し、成人の男性のように見えるものとなる。なんの気なしにはじまった雛形との生活は、恋人との関係や、ゆき子自身の生活に浸食し、 恋人とも家族ともいえない関係を切り結んでいく。
「痩せた背中」
今は東京に暮らしている青年は、父親の訃報で故郷に帰る。そこは、父の後妻である美しい女と、父、 三人での忘れえぬ、しかし現在も青年に影を落とす思い出の詰まった場所であった。父の葬儀で、童女に返ったかのような女と青年は再会する。
会場となった「アトリエひらや」は閑静な住宅街の一角にあって、どう見ても普通の民家をそのままアトリエにしたとしか思えないが、それはそれでいい雰囲気を醸し出している。そんな場所で演じられる短編ふたつ。いずれも小説を元にした戯曲とのことだが、こんなお話をよく見つけるものだ。
「物語が、始まる」は、人間そっくりだが人間ではない“雛形”を拾って育てている女性とその恋人の話。「痩せた背中」は数々の女性遍歴を誇る叔父が連れてきた女性と同居していた元少年の話。
どちらも、よく考えたらかなり突飛な状況設定なのだが、描かれているのはその状況における人との気持ちと振る舞いであり、状況自体はあくまでもお膳立てに過ぎない。そのことは当然と言えば当然のはずなのに、状況設定に酔って人間描写がおざなりになっている作品も少なくないので、これをきちんと成立させていることは作家の力量の高さを示すと思う。
2013/04/27-19:00
風琴工房「おるがん選集3」
アトリエひらや/当日清算2500円
「物語が、始まる」
原作:川上弘美
脚色:詩森ろば
出演:田中沙織/佐野功/根津茂尚
「痩せた背中」
原作:鷺沢萠
脚色:詩森ろば
出演:酒巻誉洋・李千鶴・宍戸香那恵・根津茂尚