
わたしは、生活をする早稲田にあるこの劇場は初めて行った。元は何かの作業場だったと思われるが、多くの劇場の内壁が黒いのに対してここは白。そして物品の搬入用だろうか、一階と地下一階が吹き抜けで繋がっている。今回の作品はその両方の階を舞台に使い、両方の階に客席が設置されていた。
わたしは、いつもにこにこしている
わたしは、あなたをだいじにしている
わたしは、あなたを助けている
わたしは、すべてのひとを、助けられるわけじゃないことをわかっている
わたしは、じぶんのできることと、できないことを、はっきりさせている
わたしは、世の中の不正をただす力を持っている
わたしは、家族を持っている
わたしは、子孫をこれから持つ
わたしは、あなたと上手にさよならする
わたしは、あなたに、そこからはじめない?と聞いている
わたしは、朝、きもちよく起きている
わたしは、くすりを飲まずにねむっている
わたしは、ひとなみのしあわせを手にいれている
わたしは、芸術家である
わたしは、容姿のおとろえを止めている
わたしは、ともだちとなかよくしている
わたしは、いつわりなく、くらしている
わたしは、わたしらしいしあわせを手に入れている
イプセン著 森鴎外訳 『ノラ』より
「-----さうで御座いますね。極の不思議が御座いましたら。それはあなたもわたくしもすつかり變つてしまつて。まあ、よしませう。わたくし不思議を信ずること も出来なくなりました。眞の夫婦になりますから。これでお暇いたします。----」
観客は自分のいない方の階は一部しか見えず、声だけが聞こえる。シーンによっては声すらも聞こえない。さらに複数の会話が同時進行したりする。全体を把握することはまったく不可能な演出だ。
私が選んだのは地下の方だったが、上で観たらだいぶ印象も変わっただろうと思われる。ちなみに全体が見渡せない制約を受けながらの観劇は昨年、中野成樹+フランケンズ「ゆめみたい(2LP)」でも経験しているが、わざわざ壁を作っていたあちらより自然な制約なのでストレスはなかった。
描かれているのはガールズトークだったりダメ男の日常だったりカップルの痴話喧嘩というか別れ話というか、冷静に考えたら特に高尚でもないザラッとした話なんだけど、その全体が実に美術的な演出でアートに仕上げられた印象だ。
人形のような女優さんたちの美しいことと言ったら惚れ惚れする。しかし一番いい芝居をしていたのは唯一の男優東京ディスティニーランド氏だった。役が良かったのか役者が良かったのかは分からないが。
2012/10/20-19:00
COLLOL「消費と暴力、そのあと」
LIFT/当日清算3000円
劇作・演出:田口アヤコ
出演:菊地奈緒/宍戸香那恵/汐見鈴/杉亜由子/松本みゆき/東京ディスティニーランド/八ツ田裕美/田口アヤコ
音響・演出:江村桂吾
研究・演出:角本敦
照明:関口裕二
舞台監督:吉田慎一
制作:COLLOL
制作補:守山亜希
宣伝美術デザイン:鈴木順子
フライヤーディレクション:八ツ田裕美