人間味を取り戻せ!(チラシより)
指名手配され逃亡生活を送っていた男女。
自首しようと数年ぶりに街へ出たら人々の様子が変化していた。
相手の気持ちが分からないようだ。
気持ちが分からないからか皆おしゃべりさんである。
こんなにうるさかったっけ世の中って!
これが進化の形なのか?
今までに観たクロムモリブデンの作品の中では一番心に響いてきた。振り返ってみればいつもそうだったのだろうけれど、青木秀樹の感性と筆力はすごいのだと初めて理解できた気がする。社会問題をモチーフに取り入れてただ風刺っぽく騒いでいるのではなく、その奥というか裏側にある何かをしっかり見据えているのだろう。
父親を殺されて引きこもりなって、小説を書きはじめた少年。頭の中に警官がいてむりやり解決している女性。どちらが現実でどちらが想像の産物なのかごちゃまぜになっていく。女性の頭の中にいる警官は人の心がわからないので言葉をただ文字通りに解釈する。
ちなみに森下亮と幸田尚子が演じたこの警官達、劇中では世田谷症候群とか杉並症候群とか名前がついていたけれど、現実にもある病気のはずだ。病名は忘れたが、脳神経外科医でエッセイストのオリバー・サックスが書いた『妻を帽子と間違えた男』というエッセイ集にそんなエピソードがあった。
もちろんこの芝居の登場人物がその病気というわけではないだろう。芝居が表現しているのは現代人の(脳ではなく)心の問題だと思われる。こう書いてしまうと一気に陳腐化するが、普通なら「嘆かわしいこと」として描かれるであろうことを「進化とみなしていいでしょう」と言い切ったのだ。
この他にも「作家の苦悩」みたいなテーマも描かれていたと思うが、自分は作家ではないのでその部分はさほど印象に残っていない。おそらく、観る人によってポイントは違うのだろう。
過去に観たクロムモリブデンの作品ではそこまでテーマや主張を感じなかったが、単に見逃していただけかもしれない。再演しない劇団なので劇場で見直すことはできないから、DVDを買うべきだろうか。
2012/07/30-19:30
クロムモリブデン「進化とみなしていいでしょう」
赤坂レッドシアター/事前入金3000円
作・演出:青木秀樹
出演:奥田ワレタ/ゆにば/久保貫太郎/花戸裕介/佐藤みゆき/武士太郎/手塚けだま/森下亮/幸田尚子/小林義典/渡邉とかげ/金沢涼恵
音響効果:笠木健司
照明:床田光世
美術:ステファニー
舞台監督:塚本修/今井康平
衣裳協力:色川奈津子
美粧:中西端美
演出部:入倉麻美/山口千晴/伊豫田一成
宣伝写真:安藤青太
宣伝美術:さくらの
web:小林タクシー