「覚えます。これから覚えます。(チラシより)
あなたの国の言葉。
覚えようともしなかった。
あなたが日本語を話すのを
どこかで、
当然のことだと思っていました。」
一九四五年、樺太。
当時、日本統治下にあった朝鮮。戦時下の樺太には日本人も朝鮮人も同じ日本人として労働に来ていました。日本の敗戦によって朝鮮は日本国の属国ではなくなります。しかし樺太はソビエトに占領され、日本人は内地に帰ることができましたが、朝鮮の人々は、帰ることが許されませんでした。
「記憶、或いは辺境」は、その歴史的事実を背景とした、床屋を営む日本人一家と朝鮮人たちとの友情と愛情の物語。個人のちいさな営みが、大きな歴史の矛盾にすりつぶされていく姿を描いた劇団代表作の再演です。
太平洋戦争中の市民を描いた作品は多々あるが、樺太が舞台というのは初めて観た。「さようなら、さようなら、これが最後です」という言葉は有名だが、そこでどんな人達がどんな街を築きどんな風に暮らしどんな形で終わったのか、詳しいことは何も知らなかった。そこに朝鮮人労働者がいたことなど全然知らなかった。だからこの作品がどの程度まで史実か分からないが、風琴工房のことだから、7割くらいかなと勝手に想像している。
物語自体はさほど奇抜な物ではなく、当時の日本人と朝鮮人は他の土地でもこんな風に接していただろうと思われる、差別や偏見が見えつ隠れつする日常が描かれている。敗戦の後にソ連が攻めてくる時期の混乱は、中国大陸でも似たようなものだったろう。そしてそういう極限状況ではきっと、この作品に出てくるような個人的な友情はより緊密になったのではなかろうか。
登場人物の喋る言葉が方言と朝鮮語と片言の日本語だが、これがまたなんとも秀逸だった。私は朝鮮語を知らないのでそれが正確か否かは判断できないものの、違和感はなく感心した。戯曲を書いた作家にもそれを引き受け切った役者人にも脱帽する。
2012/07/07-14:00
風琴工房「記憶、或いは辺境」
シアターKASSAI/当日清算3300円
脚本・演出:詩森ろば
出演:香西佳耶/浅野千鶴/伊原農/ワダタワー/津留崎夏子/阪本篤/岡本篤/石村みか/金丸慎太郎
脚本・演出・宣伝美術:詩森ろば
美術:長田佳代子
照明:榊美香
音響:青木タクヘイ
舞台監督:小野八着
演出助手:鄭光誠/沼景子/高松章子
韓国語指導:姜知先
制作:横井貴子
当日運営:山田杏子
プリンティングディレクター:青山功
記録映像:西池袋映像
記録写真:奥山郁