父が死に、母は見えない猫を飼い始めた。母・よし子、61歳。くろねこちゃんとベージュねこちゃん。煙草の匂いの消えた実家は発泡スチロールみたいに荒涼として、僕は知らない。僕は知らなかった、幽霊みたいな自分たちの正体を。妹と口をきくなんて、一体何年ぶりだっけ?(チラシより)
くろねこちゃん、どこにいるの? ベージュねこちゃん、どこにいるの?
母さんそれ猫ちがう、それ何だ、何だろうこの素敵な世界は!
基本的に家族の話は苦手で、特にあからさまな「家族の愛情」を描いているものは勘弁してほしいと思っているが、この作品はまったく美しくない家族の話なので良かった。家族に干渉することでしか自分の存在を確立できない専業主婦の母は、それによって家族から敬遠されてしまう。そして子供が自立して夫が死んだ後はどんな心境になり、どんな行動を取るのか。
この芝居で描かれていたのは痛々しい姿ばかりで同情する気持ちも湧いてこないのだが、見限って出ていったとしても母を傷つけたいわけではない家族たちの迷いがひしひしと伝わってきた。父の遺言を読む場面とそれに続く兄妹の会話がそのクライマックスだろうか。
アフタートークの中で、この話はハッピーエンドなのかバッドエンドなのかという話題が出て観客に問うたところ、多数派はハッピーエンドだったがバッドエンドと解する人も少なくはなかった。確かにどちらとも取れると思う。私自身はハッピーエンドに挙手した。状況はちっともハッピーじゃないけど、状況の受け入れ方は前向きだったと思ったからだ。
しかし後味は甘辛い。
2012/03/18-14:00
DULL-COLORED POP「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」
アトリエ春風舎/当日清算2500円
作・演出:谷賢一
出演:東谷英人/大原研二/塚越健一/なかむら凛/堀奈津美/百花亜希/若林えり/佐野功
演出助手:元田暁子
照明:松本大介
美術協力:土岐研一
宣伝美術:山下浩介
宣伝写真:堀奈津美
制作:鮫島あゆ&グラマラスキャッツ