2011年10月29日

shelf「幽霊」

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「わたしたちには取りついているんですよ、
父親や母親から遺伝したものが。

でもそれだけじゃありませんわ。

あらゆる種類の滅び去った古い思想、
さまざまな滅び去った古い信仰、
そういうものもわたしたちには取りついていましてね、

そういうものがわたしたちには、
現に生きているわけではなく、
ただそこにしがみついているだけなのに─

それがわたしたちには追い払えないんです。」
(チラシより)

 イプセンの戯曲を矢野氏が構成した小品。戯曲を知らない私にはどこまでが原作のカラーでどこからが演出の領域なのか区別できない。だからできあがった作品を単一のものとして受け入れるしかないわけで、原作の世界と演出者の挑戦がちゃんと理解できたかと言えば、多分できていないのだと思う。

 昔のノルウェーの旧家が舞台だが、ロシア人であるイプセンがどうしてノルウェーの話を書いたのだろう。ここに描かれたノルウェー人の考え方とか風習はどのくらい事実に即しているのだろうか。日本を舞台にしたマダム・バタフライが日本人の感覚を正しく描いているとは言われない(と聞いた。私は読んでない)ように、これを観たノルウェー人は自分たちを正しく描いてないと言うのではなかろうか。

 なぜそんな風に思うかというと、描かれている人々があまりにも滑稽だったからだ。出来事に対する受け止め方がやたら激情的で、感情の起伏が極端に大きい。演劇としてはドラマチックで面白いけれど、そんな人いるか?という疑問が沸いてしまう。コメディならそういう誇張や変なキャラクターは違和感なく受け止められても、こういう古典作品だと奇妙な印象となる。

 しかし、考えてみれば日本の歌舞伎に出てくる人物も結構そんなタイプが多いかもしれない。心中物なんかそんなキャラじゃなきゃ成立しないだろうし。話を劇的にするために極端なキャラ設定をするのは、古今東西に共通する手法なのかもしれない。

 それで最初の話題に戻ると、この滑稽さは戯曲由来なのか演出の工夫なのか、どっちなのか自分にはわからないのだ。それがわかればもっと楽しめたのではないか。そう考えるともっと勉強するべきかとも思うのだが、今のところ戯曲を読もうという気分にはなっていない。

《追記》
 イプセンはロシア人じゃなくてノルウェー人でした。なんでロシア人だと思ったんだろう?多分誰かと間違えている。まあ私の認識はその程度のものです。

 それでイプセンについて軽くウィキペディアで調べてみると、ノルウェー人とはいえノルウェーを嫌ってドイツやイタリアで長く生活したとのこと。滑稽に描いている印象はひょっとしたらそれが原因かもしれない。

2011/10/29-14:00
shelf「幽霊」
アトリエセンティオ/前売券2500円
原作:ヘンリック・イプセン 『幽霊』 より
翻訳:毛利三彌 ほか
構成・演出:矢野靖人
出演:川渕優子/三橋麻子/櫻井晋/春日茉衣/鈴木正孝/沖渡崇史
音響・ドラマトゥルク:荒木まや
照明:則武鶴代
衣裳:竹内陽子
写真:原田真理
宣伝美術:オクマタモツ
制作協力(名古屋):加藤智宏
広報協力(東京):三村里奈
製作 / shelf・ 矢野靖人
posted by #10 at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 東京観劇2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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