
この世界のどこかに嫉妬についての物語だけを集めた書庫がある。2011年、風琴工房、秋のスズナリは男優九人で繰り広げる激しい嫉妬の物語。(チラシより)
青色発光ダイオードの開発者が何億円もの報奨金を会社に求めて裁判となった件は、技術者でなくとも知っている人が多いだろう。これはその話を下敷きにしている。嫉妬をテーマとした作品と聞いていたが、観た印象としてはそういうテーマとは思えなかった。確かに嫉妬する人物も出てくるが、ほとんどは健全な対抗心や憧れに類するものだったのではないだろうか。
登場するのは全員が男性。時代的にやや昔であることと、田舎の会社の技術者達の話なので必然的にそうなったのだろうが、女性が登場したら別の種類の「嫉妬」が出てきてしまったと思うので、純粋に仕事と研究の世界に特化する意味でもこれは良かったと思う。また、舞台セットがとても美しく、それも華美な美しさではなくスッキリと整頓された棚のような美しさだったので、男ばかりのむさくるしさもなかった。
いい話かというと答に困る。現実に起きた出来事については、まがりなりにも技術者である身として思う所の多いものだった。ただこの芝居は研究者と会社の関係と言うより会社員同士の人間関係にスポットを当てたものであるため、別に研究者とか技術者に限らず組織で働くサラリーマン全体にとって身につまされる話ではないだろうか。
この話に出てくる誰に自分を重ねるか?優秀なあの人を自分みたいだと思える人は少なかろう。会社を訴えるほどの自信がある人。会社から訴えられるような背任に走る者。組織を飛び出す者と、組織の論理に埋もれる者。自分は誰に似ている?観劇しながらそんなことを考えていた。
2011/10/22-14:00
風琴工房「Archives of Leviathan」
ザ・スズナリ/前売券3300円
作・演出:詩森ろば
出演:東谷英人/岡本篤/金成均/酒巻誉洋/佐野功/園田裕樹/多根周作/寺井義貴/根津茂尚
舞台美術デザイン:杉山至+鴉屋
照明プラン:榊美香
音響プラン:青木タクヘイ
舞台監督:小野八着
ドラマトゥルク:大塩哲史
演出助手:元吉庸泰/沼景子/早坂彩
制作:池田智哉
チラシ画:塩崎顕
宣伝美術:詩森ろば