「恋愛耐湿」
G/pit
04/12/29-05/1/2
作・演出:刈馬カオス
出演:松井真人/鹿目由紀/加藤裕子
男のアパートのバスルーム。下着を脱いでバスタブに横たわる女と、傍らに立つ男。そこへもう一人の女が訪れる。何これ、どういうこと?‥‥そして始まる泥沼の愛憎劇。二人の女は先輩後輩。浮気がばれて慌てる男の言動は女の確執に包まれながら理解できないほどに崩れていく。まともなのは誰か。立ち去るべきは誰か。
45分が2時間以上に感じるほど息苦しく、ずっと手に汗を握りつづけていた。全身に力が入っていたため、観劇後はひどい肩こりに襲われた。心地よい観後感を得たければ刈馬作品を観てはいけない。この作品はそんな説を強く裏付けるものだろう。救いの無いディープな空気に浸りたい人にこそ最適だ。
狭い舞台に数少ない客席で、観る者としても逃げ場がない。逃げ場があれば逃げていたかもしれない。一生に2回くらいはこんな泥沼を経験してみたいものだが、実際その場に立てば死ぬほど嫌だろう。自分は男なので男の立場に我が身を重ねて見たくなるが、ここまで狼狽する見苦しい人物に感情移入もできない。痛々しいまでに愚かな男に同情の余地もなく、狂気じみた言動に恐怖すら感じた。かと言って女二人が正常かと言えばそうでもない。ラストのセリフが最後に残された救いの道すら砕いて暗転する。
松井真人はハートフルコメディを得意とする劇団あおきりみかんの看板俳優。彼がこういう役を演じるのは初めて見たが、役者としての力量を再確認させられた。正直、始まってしばらくはこの男優が松井真人だと信じられなかったほどだ。鹿目由紀はその作・演出を務める主催者で、役者として見るのは初めて。しかしこういう芝居ができるのなら、もっと舞台に立って欲しいと思う。加藤裕子は所属するB級遊撃隊とは別の舞台で見たことがあり、その時はさほど注目しなかったのだが、今回の舞台で見直した。
とにかく濃いことこの上ない作品だった。ぐったり疲れて帰途に着きながら味わう気分は、マゾヒスティックな快感なのかもしれない。