前説は客の前に立って肉声で行うべきだと思う。
ある公演を観に行ったとき、開演直後に客席で携帯が鳴った。それだけでも非常識だが、なんとその客は携帯を出して喋り始めた。手の届く場所にいたら殴っていたかもしれない。別の公演ではフラッシュを焚いて舞台を撮影している親子連れがいた。
マナーの悪い観客にはうんざりさせられる。映画館や美術館でも携帯オフが求められるが、演劇においては他の客に迷惑をかけるだけでなく、舞台上の役者の集中力を削ぐことで作品自体を壊してしまう凶器になるのだ。
しかし、そういう客を恨んでも仕方が無い。いかにしてそんな不幸な事態を防ぐかは、劇団が解決すべき重要な課題だろう。
そこで思うのは「前説」の重要性だ。開演前に観客に対して「携帯は電源を切れ」「飲食喫煙は禁止」「トイレは今のうちに」等々の注意事項を述べるわけだが、小劇場ではスタッフが出てきて肉声で話すことが多い。新人役者が訓練を兼ねて登場するのもよく見かける。芝居に比べれば演技の必要もないのだから簡単に思えるが、意外と緊張するものらしく、すっかりあがって日本語がおかしくなっていたりするのも微笑ましい。名古屋ではシアターガッツがこれに力を入れており、毎回マスコットキャラクターが登場する。
ところが、ある程度の大きさを持つ劇場では、場内放送を使ってこれが行われる場合がある。担当者は音響ブースの中で原稿を読んでいるのか、まず失敗がない。テープに録音されたものを流していると思われることもある。いずれにせよ流暢に読み上げる。
私がこれまで上演中に着信音を聞かされたのは、ほとんどが後者のタイプだった(と思う)。理由は簡単だろう。スピーカーから聞こえてくる丁寧なアナウンスは、観客の耳に届いていないのだ。大部分の観客にとってそういう放送はBGMの一部に過ぎない。これを聞いて携帯の電源を切る客は、聞かなくても切る客だ。
生身の人間が切々と語る言葉と、電気的に流されている放送の言葉とでは、聞き手の心に届く率は比較にならない。「携帯は切ってください」と語る人物と直接目があったら、よほどの理由が無い限り従うだろう。だから、前説は客の前に立って肉声で行うべきだ。
あまり口うるさく客に注文するのはためらわれるかもしれない。しかし、着信音が鳴ってしまったら全員が悲しい思いをするのだ。よろしく頼みますよ、制作の皆さん。
2004年07月14日
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