2004年02月05日

日本劇作家協会東海支部プロデュース「劇王II」

日本劇作家協会東海支部プロデュース
「劇王II」
長久手町文化の家
04/01/31-02/01

[A-1]梅緒咲紀子「over spilt milk」
  演出:梅緒咲紀子
  出演:多田木亮佑、上田定行

[A-2]くらもちひろゆき「花の命は短くて」
  演出:佃典彦
  出演:二宮信也、ヒート猛、吉岡弘

[A-3]山田健司「チューズデイ」
  演出:月面コレクション
  出演:山田健司

[A-4]久川徳明「ツキのあかりの、そんなヨル」
  演出:久川徳明
  出演:ティナ棚橋、相良真、松田泰基、佐々木和代

[A-5]品川浩幸「元パパ」
  演出:品川浩幸
  出演:藤元英樹、寺西栄美

[B-1]刈馬カオス「インスタント・セックスフレンド」
  演出:刈馬カオス
  出演:西尾知里、渡辺真輔

[B-2]徳留久佳「ボルシチと針金」
  演出:徳留久佳
  出演:栗木巳義、斎藤やよい、山積わたしも、向原パール

[B-3]瀬辺千尋「たみちゃんの西瓜」
  演出:瀬辺千尋
  出演:岩木淳子、小関道代、段丈てつを、長江ヒロミ

[B-4]平塚直隆「爆笑王」
  演出:平塚直隆
  出演:江口健、関戸哲也、中尾達也、丹羽亮仁

[B-5]キタミコマエ「ストレート・ステッチ」
  演出:斎藤敏明
  出演:纐纈麻子、成瀬亜季、よしもりゆきこ、かわかたみかこ


 20分の短編芝居十編が前回の覇者に挑戦する。優劣を決めるのは観客による投票。初日は全部観たが二日目は行かなかったので、杉本作品は観ていない。

 劇作家協会が主催する企画なので、評価の対象はあくまで劇作家(つまり脚本)なのだが、観客が脚本の良し悪しを判断するのは難しい。それは能力ではなく情報の問題だ。普通の観客は脚本自体を読んだりしないので、舞台上で演じられる芝居を観て判断するしかない。だがそれは脚本に演出や演技が加わってできた作品の全体像であり、その中から脚本による要素だけを取り出せと言われてもまず不可能だ。つまり結局のところ投票は作品に対して行われたと捉えるべきだろう。

 初日の投票結果を以下に示す。メモし忘れたので、2chに書かれていたデータを借用した。一般客票の総数がAとBで異なるため各プログラム内での得票率をカッコ内に付記した。

劇作家   一般客票     ゲスト票     合計
梅緒   24(13%)  13(14%)  37(14%)
くらもち 45(25%)  30(33%)  75(27%)
山田   18(10%)  10(11%)  28(10%)
久川   12( 7%)  11(12%)  23( 8%)
品川   83(46%)  27(30%) 110(40%)☆

刈馬   26(11%)  47(52%)  73(22%)
徳留   38(16%)   8( 9%)  46(14%)
瀬辺   58(24%)   7( 8%)  65(20%)
平塚   97(41%)  24(27%) 121(37%)☆
キタミ  19( 8%)   4( 4%)  23( 7%)

 各プログラムで勝者となった品川作品と平塚作品は、いずれもコメディでかなりの笑いを得ていたものであり、この結果はほぼ予想どおりだった。なぜなら、進行役(赤井俊哉)のトークやオープニングの余興も基本的に笑いを取ることを目指した演出であり、イベント全体を支配する空気は“面白いものが勝ち”になっていたからだ。個々の芝居を単品で上演して観客に“絶対的な満足度”を尋ねたら、違った結果になっていたかもしれない。

 冷静に考えれば、ジャンルを統一しない作品間で優劣を決めること自体がそもそもナンセンスだ。しかしそのことは主催者や参加者も充分理解した上で、お遊びとしてこのイベントは実施されている(と思う)。だから、この結果がそのまま劇作家の優劣を表しているとは誰も考えないだろう。

 さて、個人的には自分がまだ“普通の観客”の視点を失っていないことが確認できて安心した。実は最近、あまり多くの作品を観ていると視点が歪んでくるような不安が沸いてきていたのだ。でもまだ大丈夫らしい。

 これに対して普通の観客の視点ではない人達もいた。ゲストの3名(ラサール石井、銀粉蝶、安住恭子)だ。もちろん彼らの視点が歪んでいるとは言わないが、Bグループにおいて一般客票とゲスト票がまったく違う傾向を示したのは特筆に価する。一般客票で5作中4位だった刈馬作品が、ゲスト票ではダントツの1位になっている。これは何故か。

 聞くところによるとゲストも一般客に混じって普通の客席で観劇していたそうだから、得られた情報に差があったわけではない。つまり、例えば脚本自体を読みながら観劇していたとか、ビデオで繰り返し見て検討したとか、そういうことではない。二日目には各作品についてゲストが詳しく語ったとのことなので、それを聞けばもっとよく理解できたかもしれない(聞いた人のフォロー求む)。

 プロとアマの視点の違いとか、東京と名古屋の文化の違いとか、たまたまこの3人の嗜好が偏っていたとか、いくらでもそれらしい説明はできる。だが何にしても、別にゲストの出した答が正解と言うわけではない。と同時に、一般客の票が多かったからと言って今後も同じような作品を作りつづけることが是とは限らない。

 色々な作家がいて、色々な役者がいて、色々な芝居がある。当たり前のことだが、並べて見せられると本当にそのとおりだと気づかされる。いわばメニューリストとしての短編集だ。今回長久手まで観に行って得られた一番の収穫は、名古屋の演劇のバリエーションが充分に豊かであることを確認できた点だったのかもしれない。


posted by #10 at 01:20| Comment(1) | TrackBack(0) | 名古屋観劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
上演から1ヶ月も経ってしまいましたが2日目の様子と審査員のコメントを入れてみます。
2日目は会場の雰囲気も違っていたのか、元パパも爆笑王も1日目と比べて笑いがあまり起こらなかったです。舞台は生き物だというのを目の当たりにした気がします。
審査員の方の各作品ごとの解説は具体的過ぎるかもしれませんので、ここに掲載するのは避けたいと思いますが、全体的なコメントは次のような内容でした。


うまい役者さんがいるなと関心した。
全体的に饒舌すぎ、説明のための台詞が多い。何のために演劇で表現しようとしているのかをよく考えた方が良い、台詞で説明しちゃったら演義する必要がないのでは?(お話だけなら朗読でもいい)
ハッピーエンドが多過ぎ。もっとドロドロした終わり方があってもいいのではないか(お客さんの投票を考えると難しいかもしれないが)
題名をみたら内容やオチがわかってしまう、もっとひねってはどうか。
劇作家は20分しかないと言っていたが20分もあるんだからもっといろいろできると思う。


審査員の方は凄く良く観ている。正直、目から鱗でした。
1ヶ月経った今、印象に残っている作品はと聞かれたら元パパとインスタントセックスフレンドと私は答えます。
インスタントセックスフレンドは1回しか観ていないのに、魚の骨がノドに引っかかったみたいに何か残ってます。もどかしさというか苛立ちというか、なんかそんなのが。
イベントとしてはとても面白かった。今回参加された劇作家やお客さんが、どのように変わっていくのか楽しみでもあります。

PS.元パパは以前、藤元さんに替わってどうなるか楽しみと書きましたが、藤元さんは背中の丸め方、膝の曲げ方、声ののせかたなどの雰囲気がわかりやすく表現されていました。似顔絵で特徴を掴んでイラスト風に描くのと実物そっくりに描くのとの差みたいなものでどちらが良いかは好みの問題なのだと思います。
Posted by しおこんぶ。 at 2004年03月01日 01:31
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