見始めて15分くらいは、一体これは何なんだと思った。モノローグで状況が説明されながら、不可思議な肉体パフォーマンスが繰り広げられる。また“学芸会”に当ってしまったかと後悔しかけた。だが途中から、こういうのも面白いと思いはじめた。
描かれている光景には何一つ劇的な要素はない。事件も起こらず、特別な人も登場しない。これといった夢や希望を抱いているわけでもない三人の若い男女が、怠惰に時間を過ごしているありがちな姿だ。しかしそれを、過剰なまでの演出で描く。
登場人物と役者の関係は固定されず、大道具はないが肉体的な動きは激しい。パントマイムやダンスらしきもが、騒がしい照明を当てながら延々と続けられる。そして何の決着もなく終わる。
良く考えてみると、これは最近の舞台演劇がやっていることの逆ではないだろうか。非日常的な出来事をリアルに演出するのではなく、日常的な情景を劇的な演出で飾っている。舞台においてリアリティのある演出がどれほど意味を持つのかについては議論のあるところだが、少なくともこの作品はすっきりと答えを出している。つまり、まったく意味がないのだと。
演技のリアリティを完全に捨てる代わりに、ライブパフォーマンスとしての面白さを追及したというところだろうか。この劇団は初見なのでいつもこうなのかわからないが、ちょっと気になる作品だった。
2006/08/05-19:00
小指値「Zeller Schwarze Katz [論文編]」
王子小劇場/当日件2500円
作:篠田千明
演出:野上絹代
出演:天野史朗/加藤和也/大道寺梨乃/竹田靖/野上絹代/山崎皓司