2011年04月09日

時間堂「廃墟」

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「廃墟」───敗戦直後の東京。焼け跡の洋間を舞台に繰り広げられる家族の物語。
体制が変わった事を機に教職を休んでいる柴田の家に、戦傷を負った教え子が訪れるところから物語は始まる実直に教壇への復帰を求める教え子の頼みを、柔和にしかしかたくなに拒む柴田。金に困り飢えにさいなまれている柴田とその家族たちの間に、だんだんと戦争が変えてしまった人間像が浮き彫りにされていく。敗戦が市井のひとびとから奪ったものは、命や食料だけではなかった。
(チラシより)

 大義名分も正義も道徳もどこかへ行ってしまったような社会の中で、政治と革命を語る者、厭世的に現実をわらう者、身をやつして生き抜く者、誰もが空腹で、先が見えない暮らしを続けている。家族のこれからをどうするの。日本はこれからどうするの。何も答は出てこないけれど、ただ葛藤だけが確かにある。

 平成に生きる我々にとっては時代劇のような作品だが、三好十郎によるこの戯曲の初出は1947年5月であり、敗戦から2年も経っていない。多少は落ち着きを取り戻していたかも知れないが、当時としては決して昔話ではなく、現在進行形の今を描いたものだっただろう。役者も観客も、今とは全然違う思いでこの芝居に接していたと思われる。

 私たちは当時の人々と違って、それから日本がどうなったかを知っている。奇跡のような発展を遂げたことを知っている。米国と同盟を結び、社会主義国を敵にしたことを知っている。その知識を踏まえた上で見ている私たちと、そうでなかった当時の観客とでは、感じ方は大きく違うだろう。作者が表現したいと思っていたことをよりよく受け止められるのはどちらだろうか。

 とはいえ、役者も観客も飢えなど知らない、革命への議論すら過去のものとなってしまった今において上演されたものとしては、とても成功した舞台になっていたと感じた。染み入るべき作品がちゃんと染み入ったという印象だ。

2011/04/09-14:00
時間堂「廃墟」
シアターKASSAI/前売券3000円
脚本:三好十郎
演出:黒澤世莉
出演:鈴木浩司/菅野貴夫/浅井浩介/小川あつし/小田さやか/酒巻誉洋/猿田モンキー/高島玲/武井翔子/百花亜希
照明:工藤雅弘
衣装:阿部美千代
宣伝写真:松本幸夫
宣伝美術:立花和政
Web制作:小林タクシー
ビデオ撮影:$堂
演出助手:北見有理/石高由貴
制作:北沢芙未子


posted by #10 at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 東京観劇2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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