
「スーサイドなエルフ」である死ぬ死ぬ詐欺の女は、打ち捨てられた大量の紙幣を抱えながら、放置された旧美大跡のアトリエにひっそりと籠り、この場所に意味もなく集ってきた仲間達に優しくされるのを待ちながら何もしていなかった。そのころ中東の国イエメンではかつて女の3番目に好きだった男が自己責任で拘束されつつ、何もしないまま親切な扱いを受けていた。そして女に優しくしようとしていた男は、優しくするとは何だろうか、と考えるだけで特に何もする事はなかった。誰ひとり何もしないまま、舞台は1ドル49円の世界へ突入していく……。(チラシより)
前回あたりからリアルである事をあきらめたジエン社第6回公演は、演劇をやる根拠に酸欠しながら、それでも、すでにインフレしている「物語」の枠組みへ再突入していく。
様々な背景を持つ人物がちょっとずつ関わり、すれ違い、ぶつかり、別れていく。物語が進行していくようでそうでない。これは状況そのものが描かれている作品だと思う。その場所を中心に人々が行き来する、いわゆるワンシチュエーションドラマ。
大学というのは、ほどよく社会から隔絶した空気が漂う。自分の学生時代の部室もそうだったけれど、ごちゃごちゃと色々なガラクタの中に居心地の良い場所ができる。ずっとそこに居続けるわけにはいかないと心のどこかで知っているのに、でもしばらくはここにいたいと思う場所。
この作品で描かれた場所は旧美大跡のアトリエという設定なので、動いている大学ともまた違い、ある意味時間が止まっている。だからなおさら社会との隔絶感が強くなる。さらに外ではデモをやっていることでコントラストが際立つ。何も生み出さない空間。でもそれは、栄養のないお菓子のように美味しいのだ。
動かざるをえない世界で生きながら、時々こんな場所に逃げ込みたくなる。そんな誘惑を感じさせる舞台だった。
2011/04/02-19:30
The end of company ジエン社「スーサイドエルフ/インフレ世界」
d-倉庫/前売券2800円
脚本・演出:作者本介
出演:猪股和麿/伊神忠聡/大倉マヤ/大重わたる/萱怜子/北川未来/西尾友樹/中野あき/萬洲通擴/守美樹/山本美緒/横山翔一/善積元舞台美術:泉真
舞台監督:桜井健太郎
照明:南星
音響:田中亮大
Web:きだあやめ
宣伝美術:サノアヤコ
制作:大矢文
当日運営:本山紗奈
演出助手:藤村和樹/吉田麻美