涙をもって種まく者は、喜びの声をもって刈りとる。(チラシより)
種を携え、涙を流して出ていく者は、束を携え、喜びの声をあげて帰ってくるであろう。
尼崎のJR福知山線脱線事故を題材にしているが、登場する鉄道会社の名前は変えているのであくまでもフィクション。登場するのは医師、救助隊員、新聞記者、乗客として娘と共に事故に遭った牧師と鉄道会社職員。
物語の中心は事故そのものではなく、救助にあたった人々の葛藤だ。タイトルになっているトリアージとは選択。救命不可能な被災者には黒タグを付け、一切の治療を行わない。多数の被害者が出る大災害で救命できる数を最大にするため必要な選択だが、黒タグを付ける医師、付けられた被災者の遺族の気持ちは、簡単に割り切れるものではないだろう。この作品ではまさにそこに焦点を当てて描いている。
エピソードのいくつかはNHKスペシャル「トリアージ 救命の優先順位」で触れられていたものなので、タイトルから言ってもこの番組から着想を得たと思われる。しかし、ドキュメンタリーではなく物語として非常にうまくまとめられており、胸打たれるものがあった。
実際にあった事故をモチーフにしている点で少し前に観た「葬送の教室」と通じるものがあり、恥ずかしながらどちらもかなり泣いた。実話を利用しているのはある意味で反則技でもあるが、両作品に共通しているのは「悪い奴」が出てこないことだ。みんな間違ってないし、みんな苦しんでいる、それでも不幸はやってくる。
できれば今度は、実話を利用せずにこれだけ泣ける作品を観てみたいものだ。
2010/11/28-19:00
トリガーライン「トリアージ」
小劇場楽園/当日券3000円
作・演出:村田一高
構成:水端兄
出演:北川竜二/藍原直樹/瀬川諒平/大迫健司/重松宗隆/柘植裕士/小角まや/久津佳奈/小坂実夏子/吉田真理/横山仁美/遠藤良子/江里奈/野々目良子/尾川止則/和田武/林田一高
演出補:北川竜二
舞台監督:大地洋一
照明:松本永
音響:佐藤春平
美術:松本謙一郎
チラシデザイン:高木理恵子
制作:安田みさと/塚原正和