実はミュージカルであることを知らずに足を運んだので最初はとまどったが、心配することはなかった。独特な表現ではあるが面白いと思う。特にこの作品は日本のミュージカル黎明期を扱っているわけなので、一番適した手法だっただろう。
奇術師の夫の助手として共に渡米した徳子だが、日本人形のような容姿で夫以上の人気を得てしまう。最初は嫌々だったが、ダンスを覚えて舞台で成功を重ねるうち、もっと自由に踊りたいと願うようになる。しかし夫は次第に彼女の才能に嫉妬し暴力をふるい、彼女の稼いだ金も散在してしまう。耐え切れず離婚訴訟を起こすが時代の壁に阻まれて敗れる。その後も踊りつづけるが、ついに29歳の若さで倒れ、帰らぬ人となる。
‥‥という話だが実際は時間軸が多少前後するため、漫然とダンスを眺めていると筋がわからなくなりかねない。パンフレットに「二回観ていただけるとストーリーがよく分かる」と書いてあったのはそういう意味かと納得。とは言っても基本的な展開は最初の方でわかるので、あとはその詳細解説を見るような気持ちで見ていればよかった。
「時代」と「運命」をキャラクターとして登場させ、物語の案内役を務めさせたのは一つのアイデアだが、あまり役に立ってはいなかったと思う。普通の芝居と違ってミュージカルは歌で表現する場面が多いわけだが、これはただセリフに音楽がついただけではなく、特に最近の芝居ではあまり使われていない「モノローグ」としてのセリフだ。モノローグは対話と違ってかなり説明的な内容になることが許されるのだから、あえて進行役を置く必要はなかったのではないだろうか。
それにしましても、かなり色々な舞台を観ているご様子。舞台人にとって貴方様のようなお客様をこれからも大事にしたいと心より思っております。
ありがとうございました。