1927年(昭和2年)、『文藝春秋』に発表。(チラシより)
山中の社、奥の院にて──。丑の刻参りの女・お沢が捕えられ、神職や村人たちに辱められている。
すると、御堂正面の扉が開き、秘密の境より気高く世にも美しき媛神が現れた。
主人公の女は、自分を裏切った男に対して丑の刻参りで呪いをかけようとしていた。それは人に見られたら成就しないと言われているが、最後の日に見つかって捕えられてしまう。失意のどん底でなぶりものにされようとするその時、女の神様が降臨する。
その後の展開は痛快そのもので、男の自分でもスカッとするのだから女性ならなおさらだろう。男たちを尻目に媛神は女の願いをかなえてやる。止めようとする神職たちを軽くあしらい、倫理も正論も知ったことではないと開き直ってしまう。でも、ちゃんと最後はこんなこともうしてはいけないと諭して帰っていく。
この作品に「多神教」というタイトルを付けたセンスも秀逸だ。たしかにこれは多神教だからこそ許される、神の甘さだ。神とは言っても元は石垣の人柱になった娘のようなので、キリスト教の神のような創造主ではない。だからとても人間臭いが、それがまた救いとなる。
さて、泉鏡花作品の全編上演を目指している遊劇体だが、この作品はこれまで他に上演された例が見つからず、恐らく初演になるとのこと。
大正時代に作られた五條楽園歌舞練場という風情ある建物は、昭和初期に書かれた本作にはぴったりだった。エアコンがないので天候によってはかなり暑い時もあったようだが、私が観に行った日は天気が悪かったおかげで室内は涼しく快適だった。
2010/05/23-14:00
遊劇体「多神教」
五條楽園歌舞練場/当日券2800円
作:泉鏡花
演出:キタモトマサヤ
出演:大熊ねこ/坂本正巳/こやまあい/村尾オサム/戸川綾子/あた吉/条あけみ/氏田敦/中田達幸/誉田万里子/長谷川一馬/赤城幻太/濱奈美/久保田智美/池川辰哉/塚本修