32階。ホテルの最上階、高級レストラン。(チラシより)
コースを食べるのはちょっと勇気がいる。
そんなとっておきの場所で、
いろんな人がごはんを食べる。
月に一度の自分にご褒美。一世一代のデート。
長年のあの人に別れを告げ……。
雲が下に見える。ビルがおもちゃみたいだ。
電車は音もたてないでゆっくりかわいい。
あたしもかわいいのかな。
あたしもあんなふうにちっちゃくて音もたてないでそこにいて、
それでも、これは私だ。
あたし以上でもあたし以下でもない。
これは私の話だ。
そしてきっとあなたの話だ。
鈴江俊郎は元・劇団八時半の主宰で現在はoffice白ヒ沼とか演劇ユニット昼ノ月の人になっているようですが、上品芸術演劇団というなにやら挑戦的?な団体にも参画しているようです。でも、彼が書く戯曲はいつも同じ香りがするからすぐ判る。決してマンネリではないけれど、落ち着きをもたらす既視感。クライマックスの長台詞はゾクゾクする。
ただ今回は精華小劇場の企画の一環として円形劇場で、その点については不満が残った。円形と言っても実際は方形で四方に観客がいるのだが、明らかに良い方向とそうでない方向があったからだ。中にはまったく顔が見えなかった役者もいた。
実は昨年観た演劇ユニット昼ノ月「これは白い山でなく」でもそうだったのだが、その時は自分が“良い位置”で観られたのでさほど不満は抱かなかった。恐らくあの時も、反対側にいた人は不満だったのではないか。
アフタートークの中で鈴江氏は円形劇場について、“どの方向からも観られていているので特定の見え方を意識する必要がなく、却って自然体でできる”というような意味のことを語っていたが、一人一人の観客は決して全ての方向から見られるわけではなく、自分の座っている位置からしか見られないのだ。
だからこそ円形劇場は難しいのではないか。観客が上演中に自由に動けるのであれば良いが、そうでないならば、どの場所から見ても“後ろ”と感じないような構成を心がけて欲しいと思う。
少々不満を多く書いてしまったが、作品の内容はとても心に残るものであり、翌日もう一度反対側から観ようかと思ったくらいだ(実行しませんでしたが)。鈴江俊郎の作品は良くも悪くも正統派だと思うので、変に趣向を凝らさず直球で勝負してほしい。そうすれば私は今後も欠かさず観るだろうから。
2009/02/21-19:30
上品芸術演劇団「あたしと名乗るこの私」
精華小劇場/当日券2000円
作・演出:鈴江俊郎
出演:押谷裕子/鈴江俊郎/清良砂霧/脇野裕美子/梶川貴弘/阪本麻紀/清水陽子/大藤寛子/高橋志保/原聡子/山本正典