
正義のままでいられると思っていた、ずっと。(チラシより)
木漏れ日の下、足音をたてないよう、そっと蝶々に忍び寄る――もうすぐこれが自分のものになる。胸をぎゅっとしめつける気持ちを、少年たちは感じていた。
ぼくも他の少年たちと同じように、学校の時間も昼食の時間も忘れ、美しい蝶や蛾を探して捕まえて、古いつぶれたボール紙の箱に保管していた。裕福な家の連中にコレクションを値踏みされようと関係ない。それはぼくのなによりの宝物だった。
「エーミールがクジャクヤママユの羽化に成功したらしい」
クジャクヤママユは、古い蝶蛾図鑑でしか見たことのない珍しい蛾。ぼくは興奮を抑えられず、いてもたってもいられずエーミールの家へ――忍び込んだ。
部屋には、図鑑で見たよりもはるかに美しく、めったに手に入らないクジャクヤママユ。目をはなすのがおしかった。見れば見るほど艶めかしかった。
羽に描かれた瞳のような紋様が、じっと、ぼくを見つめていた。
原作をちゃんと読んでないのでわからないが、ヘルマン・ヘッセの作品をほぼそのまま舞台化したと思われる。いつの時代も若者の心の動きは変わらないのだと痛感させられる。
主人公は小心者なのに、やっちゃいけないことをやってしまい、しらばっくれる度胸もなく、でも罪を告白して蔑まれるのも決して平気ではない。ああ、多かれ少なかれそういうことは自分の人生にもたくさんあった。その気まずい感覚が蘇ってきてグサグサと心を突き刺さって、たまらなかった。
私が観たこゆび侍はこれまでオリジナルばかりだったので、原作ものをやるのは珍しい気がする。しかしとてもよく少年の心情が描けており、もっとこういうのを増やしてもいいのではないかと思う。
2014/01/18-19:30
こゆび侍「少年の日の思い出」
新宿眼科画廊/当日精算2300円
原作:ヘルマン・ヘッセ
脚本・演出:成島秀和
出演:廣瀬友美/島口綾/背乃じゅん/勢古尚行/藤井牧子/宮崎雄真/若林小夜
続きを読む:スタッフリスト