
かつては家電メーカーの生産拠点があり、大規模なロボット工場があった日本の地方都市。(チラシより)
円高による空洞化で町は衰退し、現在は小さな研究所だけが残っている。
先端的ロボット研究者であった父親の死後、この町に残って生活を続けている三人の娘たち。
チェーホフの名作『三人姉妹』を翻案、日本社会の未来を冷酷に描き出す、アンドロイド演劇最新作。
人間の役者とロボット、アンドロイドが共演するアンドロイド演劇は少し前から話題になっていたが、今回初めて観ることができた。いきなり余談だが電波を使用するので入場前に携帯の電源を切るようにアナウンスがあり、さすがに場内で携帯を使っている人はいなかった。いつもこうだといいのに。
アフタートークでの説明によると、使用されたアンドロイドは任意の人物の顔に似せてオーダーメイドすることが可能とのことだ。芝居でも本人とそっくりなアンドロイドという設定で使われており、観劇中は確かにそっくりに見えた。しかし実は本人役の女優さんをモデルに作られたものではないとのことで、衣装と髪型、そして女優さんの演技力で似せて見せていたのだろう。
だったらアンドロイド使わなくてもいいんじゃないだろうか。アンドロイドを使うのは興味深いが、単なる人形や背格好の似た別の役者を使って「本人そっくりという設定」で演技することも可能だ。もともと演劇は観客の想像力に依存する面が強く、オブジェを様々なものに見立てることが許される。極端な例では五反田団の「家が遠い」など、動かない人形を人に見立てて使う演出もある。あえて高価なアンドロイドを使う意味はどこにあるのかわからない。
この作品の意図が「ロボットやアンドロイドが生活に入る込んでいる近未来の世界をリアルに描く」というものかもだとしても、それはそれでちょっと歪んでいると思われる。ルンバに代表されるように多くの家電製品が実質的にロボット化しつつあるが、実用的なロボットは人間型ではない。人間型ロボットが人間用の道具を使うより、道具そのものに知性を与えてロボット化する方が現実的だからだろう。そう考えると、この芝居はB級SFのように見えてくる。
2012/10/21-15:00
青年団+大阪大学アンドロイド演劇プロジェクト「アンドロイド版三人姉妹」
吉祥寺シアター/当日精算4000円
原作:アントン・チェーホフ
作・演出:平田オリザ
出演:アンドロイド「ジェミノイドF」/ロボビーR3/山内健司/松田弘子/大塚洋/能島瑞穂/石橋亜希子/井上三奈子/大竹直/河村竜也/堀夏子/アンドロイドの動き・声:井上三奈子
続きを読む:スタッフリスト