2011年05月28日

風琴工房「紅き深爪」

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深夜の病室
もう覚めぬはずの眠りを貪るひとりの女
四人の男女の会話はやがて
姉妹が女から受けた加虐の記憶に辿りつく
これは、
なにをしなくとも数日後には止まるはずの
ひとりの女の呼吸を巡る物語
(チラシより)

 児童虐待をテーマにした作品。過去に上演された作品の再演で、再演するきっかけは大阪で起きた幼児遺棄致死事件とのこと。あれは思い出すだけで涙が出てくる出来事でした。とはいえこの戯曲は母親の育児放棄といった単純な話ではありません。

 母親に虐待された姉妹が物語の中心で、おとなしい妹には娘がいて、奔放な姉は妊娠中。そして虐待した母親は死の床にある。そんな病院の一室が舞台です。核心は「親に愛されて育った子供は子供を愛する親になり、親に虐待されて育った子供は子供を虐待する親になる」というセオリーです。ああ、怖かった。

 姉妹それぞれの夫のキャラクターも個性的。1時間ちょっとの小品ですが、かなり濃密な舞台でした。会場のギャラリールデコはかなり狭い所なので、最前列に座ると役者に手が届きそうな距離です。緊張感のある場面では臨場感ありすぎで体が硬直しました。

2011/05/28-14:00
風琴工房「紅き深爪」
ギャラリールデコ/前売券2500円
作・演出:詩森ろば
出演:浅野千鶴/葛木英/園田裕樹/佐野功/大塚あかり/横尾宏美/露木友子/中山有子
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2011年05月22日

趣向「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」

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とある大学。毎年、多くの女子学生が入学してくる。
ある学生は希望を持っている。彼女はこれから始まる日々を心待ちにしている。
ある学生は失望している。彼女は思っている。「これから始まる日々は、ちがう」。

彼女たちに時間が流れる。
歴史を数学を哲学を文学を、学ぶ間に時間が流れる。

校舎のなかに体育館がある。やがて壊される予定の、やわらかな光のはいる体育館。
彼女たちのうちの一人はとてもとてもその場所が好きで、
彼女は何かをしようと考えて、考えて、考えて、いる。
(チラシより)

 たぶん、お嬢様が集まる女子大だろう。ヨーロッパの高名な建築家にデザインされた体育館。解体されると聞いて反対運動を起こす。少しずつやり方を学んで、何もできなかった女の子が力強く自分の足で立つようになる。

 KAATの広い舞台に何も置かず、白い服を着た裸足の女性が走り抜けて物語を紡ぐ。舞台装置や照明、音楽といった演出手段にはほとんど頼ることなく、女優たちのエネルギーだけで舞台を埋めようとするかのような演出だった。それは奏功しており、豪華なセットを組むよりずっと印象深いものになっていた。

 物語はなんだか痛々しい。青春群像と言ったら陳腐すぎるだろうか。希望に満ち溢れているというよりは、不安を取り除くことに必死になっている若者たちの姿だ。自分の学生時代とは色々と違うけれど、共通するものがないわけではない。子供から大人に変わる時期、高揚感と焦りが混在する心境、時間はどんどん流れていく、おっかなびっくり踏み出してみる、あの頃の感覚がよみがえってきた気がした。

2011/05/22-18:30
趣向「解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」
KAAT大スタジオ/当日券3000円
作:オノマリコ
演出:黒澤世莉
ドラマトゥルク:小栗剛
出演:岩井晶子/上村正子/菊池美里/窪田優/熊川ふみ/サキヒナタ/清水久美子/辻村優子/米沢絵美

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子供鉅人「バーニングスキン」

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漁師のあやつる舟の板子一枚下は地獄
力士の汗散る土俵の下に埋まっているのはカネ
なら、私たちの皮膚の下にあるものはなに?

もともこもなく世界を腑分けする「開けゴマ!」の暴れ声に 座りションベンざざ漏らすパパとママ(+恋人)の恐怖はその昔、我を忘れて団欒にふけったお茶の間を握りつぶし 一日三錠という注意書きにこだわりすぎたことを今は昔と後悔させ
ガンコな油汚れごときでアンタの脳天蹴破ってやる!!!!!!!
と、再び声を張り上げる彼女の潔癖スピリットは女子供に容赦なく、ましてやじいさんばあさんをも震撼させるのであった!
これは、燃える皮膚を持つ女の物語
(チラシより)

 大阪でも独特なカラーの子供鉅人、なんだかんだで7回目の観劇です。東京で観られるとは思わなかったので素晴らしい。普通の劇場ではなくこういう変わった場所を使うセンスも良い。中身も相変わらず毒々しくカラフルで疾走する夢空間。

 重度の皮膚炎で苦しむ少女の暴虐な振舞いがどんどん広がっていく世界。個性的なキャラがあふれかえる舞台ですが、頭に斧が刺さってる女の子は「IN THE BLACK」の小道具使い回しでしょうか。あのキャラクターは一番好みだったので個人的にはナイスでした。

2011/05/22-14:30
子供鉅人「バーニングスキン」
VACANT/前売券2500円
作・演出:益山貴司
出演:益山寛司/キキ花香/影山徹/米田智子/億なつき/小中太/益山貴司
音楽:イガキアキコ/中林キララ/ワタンベ
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2011年05月21日

ペテカン「青に白」

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雲ひとつない青空に真っ昼間の白い月が浮かんでて「ごらん、あれは空のお尻の穴。あそこから空はおならをするんだよ。プープープープーおならをするんだよ」と、父は私を笑わせてくれた。「嘘〜!?」という私に父は「ほら、聞いててごらん」とふたりで耳をすまして、じっと月を見つめた。波の音に混ざって父が手に口をあてて息を吹いておならのマネをした。誰もいない浜辺に私の笑い声と父の「プープー」が響き渡った。そんなことをぼんやりと私は思い出した。
父が死んだ。
ボケた母と、宙ぶらりんな私と、がっかりな娘。
三世代、それぞれの女の想いが混じり合ったその時、物語が走り出す、唸りをあげて。
(チラシより)

 家族の話。壊れつつある家族の話。おじいちゃんが突然亡くなって、葬式に集まった家族の話。心はすっかりバラバラになっていたけれど、葬式を機会に集まって、一応なんとかもう一度やりなおすことになったらしい。

 過去に何度か書いたが家族ものはキツイ。別に私の家族が崩壊しているわけでは決して無いが、私自身がかなり不義理をしているため、家族愛を見せつけられると辛い。この作品も最初はちっとも幸せじゃない家族なんだけど、最終的にはやっぱり落ち着くところに落ち着いて大団円を迎えるのだ。

 とは言え物語として悪いわけではない。自分のことを忘れて見物するのは楽しかった。葬儀社の若手社員、父の浮気相手、娘の恋人など、空気の読めないキャラがほどよくスパイスとなっていて、母と娘の難しい関係を包み込んでいる。様々な伏線もさりげなく効いていて、よくできた物語だった。

2011/05/21-17:00
ペテカン「青に白」
赤坂レッドシアター/前売券3800円
脚本・演出:本田誠人
出演:田中真弓/大治幸雄/斎田吾郎/濱田龍司/本田誠人/羽柴真希/長峰みのり/四條久美子/谷部聖子/帯金ゆかり/岩永智/徳岡温朗/濱崎けい子/山口良一
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イキウメ「散歩する侵略者」

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地球侵略会議はファミレスで
日本海に面した小さな港町。
大陸に近いこの町には同盟国の大規模な基地がある。
この国にとって戦略的に重要な土地だ。
加瀬真治は、地元の夏祭が終わると性格が一変していた。
今までの記憶を失くし、街の徘徊を始める真治。
夫を介護しなければならなくなった妻の鳴海は、新しい生活に戸惑う。
町に事件が起きる。
それは老婆が息子一家を刺殺した後、自殺するという凄惨なものだった。
同じ頃、海岸線では町の人々が奇妙な光を見る。
それが隣国のミサイル誤射であることをテレビのニュースは伝える。
凄惨な事件と、軍事的な緊張とが相まって、町には不穏な空気が流れていた。
そして、真司は鳴海に告白をする…。

新型の「散歩する侵略者」にご期待ください。
(チラシより)

 この作品は、2007年9月に大阪で上演されたのを観た。その時点で再演だったはずなので、今回は再再演となる。ちなみに私が同じ作品を2度観たのはこれが初めてだ。

 すでに話は知っていたことと、前回のインパクトが強すぎたこともあって、今回は前回ほどの衝撃は受けなかった。一番のクライマックスシーンはちょっと間延びしてしまった気がする。それでもこれまでに観たイキウメの中ではやはり一番良い作品で、繰り返されてしかるべきだと思う。

 大幅に修正されたと聞いたが、前作をそう細かく覚えているわけではないので、どこがどう変わったかは良く判らなかった。こんなシーンあったっけ?という所は多々あったが、単純に忘れているだけの可能性が高い。基本的な筋は変わっていなかったと思われる。

2011/05/21-13:00
イキウメ「散歩する侵略者」
シアタートラム/前売券4000円
作・演出:前川知大
出演:浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世/森下創/窪田道聡/大窪人衛/加茂杏子/安井順平
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2011年05月07日

feblaboプロデュース「Dressing」

Let us only,without Dressing!
<このレタスには何も付けずにお召し上がりください>

 小さなガールズバーに、新しい女の子がやってくる。六本木や銀座の店でバリバリ働いていたという新人は、その店のナンバーワンと言われる女の子に勝負を挑むが、本当の挑戦相手は別の所にいた‥‥

 出演者全員女性という華やかな舞台ながら、女性同士のいろんな黒いものが見え隠れして、ハラハラしつつ楽しめる作品。実際のその世界がどんな雰囲気なのか知りませんが、いかにもありそうな話でした。

 エビス駅前バーはしばしば舞台として使われるが、本物のバーでもあり、終演後は軽く一杯飲んでから帰宅。というか観劇前からワンドリンクでビールを頂いていました。飲食禁止な劇場が多いけれど、こういうスタイルの公演ももっとあっていいと思います。

2011/05/07-18:00
feblaboプロデュース「Dressing」
エビス駅前バー/前売券2400円
脚本:米内山陽子
演出:池田智哉
出演:朝倉亮子/岡田まりあ/鈴木アメリ/だてあずみ。/中谷真由美/根本沙織/細井里佳/ほか
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2011年05月04日

うわの空・藤志郎一座「fineフィーネ」

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僕はまだ、その音の中にいる。
(チラシより)

 かつてバンドを組んでいた仲間達が歳をとって再開する。相変わらずな奴もいるし、すっかり変わってしまった奴もいるし、もうこの世にはいない奴もいる。

 当日パンフレットの中で座長の村木藤志郎氏は、「私の作品のテーマはすべて『愛と死』です。」と書いている。そう言われてみれば、これまでに観たうわの空・藤志郎一座の作品は必ず人が死んでいる。劇的な死に方をするわけではないけれど、常に死にまつわる物語だった。

 想像を絶するとしか言いようのないほど多くの犠牲者を出した大災害の直後に、死にまつわる物語を提示するのは勇気がいることだろう。多くの演劇人が同様に悩んだろうが、上記のように言い切るほど死を扱ってきたなら、その悩みはさらに大きかったと思う。

 そのせいだろうか、この作品の中ではむしろ死が軽く描かれている。どうやら死んだらしいということが段々分かってくる程度で、その死が重苦しくもないし格別の感慨もない。作品の中心はむしろ昔の仲間との再開となっている。新しい世代が生まれていることもポイントだろうか。

 しかし、その結果作品のテーマはかなりボケてしまったように思われる。ガツンと来るものがなかった。そんなにも愛と死にこだわる必要があったのか、疑問を禁じえない。

2011/05/04-18:00
うわの空・藤志郎一座「fine〜フィーネ〜」
紀伊国屋ホール/当日券4500円
作・演出:村木藤志郎/土田真巳
出演:西村晋弥/村木藤志郎/高橋奈緒美/島優子/小栗由加/水科孝之/島田実/指田美敏/藤田翔子/五十嵐史/高村めぐみ/浜田初/石倉祐樹/悠稀智恵/伊藤裕/薮内寛和/河村慎太郎/立川談四楼
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