2010年05月30日

木ノ下歌舞伎「勧進帳」

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源頼朝(みなもとのよりとも)の怒りを買った源義経(みなもとのよしつね)一行が北陸を通って奥州へ逃げる際の加賀国、安宅(あたか)の関での物語。義経一行は武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)を先頭に山伏(やまぶし)の姿で通り抜けようとするが、関守(せきもり)の富樫左衛門(とがしのさえもん)の元には既に義経一行が山伏姿であるという情報が届いていた。焼失した東大寺再建のため勧進を行っていると弁慶が言うと、富樫は勧進帳を読むように命じ・・・。
(チラシより)

 まあ勧進帳ですから粗筋を書くまでもなく、歌舞伎の中の歌舞伎というほど代表的な作品です。と言いながら本当の歌舞伎で観たことはありません。

 歌舞伎のように現代とまったく異なる時代に書かれた戯曲を、現代的な演出で見せてくれるのはとても面白い。特に良かったのは、決してふざけたパロディではなく、あくまでも演出の仕方が違うだけで中身はちゃんと勧進帳であるという点だ。もちろん本物の歌舞伎役者のように幼少からひたすら修練してきた役者ではないのだから、技術的には届いていないだろうが、私のような観客には特に問題ないレベルだ。

 観客の文化的背景がまったく変わっているのだから、昔通りの演出を続ける“本物”の歌舞伎というのは、それが観客に及ぼす感動という意味ではむしろ変わってしまっているはずだ。だから、観客の得る感覚を昔通りにしようと思ったら、演出は現代風に直さなければならないと思われる。

 例えば長唄をテクノに置き換えるのは、書かれた当時の観客にとっての長唄と現代の観客にとってのテクノが同じような位置を占めているなら正しい演出だと言えるのではないだろうか。実際にそうなのかはわからないが。

 とはいえ、そもそも感動するポイント自体が変わっている以上、完全に現代化することは不可能であり、ある程度は昔ながらのやり方を踏襲する必要があるだろう。アフタートークで木ノ下氏が語っていたことはそういう意味に捉えられた。その辺りのバランス感覚はとても良かったと思うので、次回作も期待したい。

2010/05/30-15:00
木ノ下歌舞伎「勧進帳」
アトリエ劇研/前売券2300円
監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生
出演:亀島一徳/重岡漠/清水久美子/福原冠/John de Perczel
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2010年05月29日

燐光群「ザ・パワー・オブ・イエス」

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「振り返ってみると、銀行がリスクを管理できるという考え方は、まったくの幻想だったと言えるでしょう」
「これは芝居じゃありません。ただの話。いかにして資本主義が、ギシギシと停止したかという話です」
「2008年9月15日。あなたはその時、気がつきましたか? 資本主義は、四日間ほど、機能を停止しました」
「完璧な状態にあると言われている船のようなものですよ。甲板は清潔、金具はぴかぴか。
 でも、誰も口に出さないことが一つだけある。その船は氷山に向かってフルスピードで進んでいるんです」
「銀行が倒産した時、いかに資本主義が金持ちだけを救う社会主義に取って代わられたかという、驚くべき物語」
(チラシより)

 サブプライムローン、リーンマンショック、そして百年に一度の大不況が来た。ノーベル賞を取った金融工学が崩れ去り、起こるはずがないと言われていたことが起きた。その渦中の人々(あるいは渦を起こした人々)の告白の物語。

 昔のNHKスペシャルでよく使われていた、インタビューっぽい場面をつないだ構成。あれは実際のインタビュー映像を使って編集できる人はごく限られるもので、職人芸的な番組作りだと聞いた覚えがあるが、この作品は役者が本人に代わって語ることでうまく構成している。

 さすがに一度観ただけでは理解しきれないことが多々あるのでいつか戯曲を買いたいと思ったが、単なるエンターテイメントとして観賞しても充分に楽しめる。さすがは燐光群と思わせる舞台だ。

 描かれた物語は、もう少し経てばどこかのジャーナリストが立派なドキュメンタリーを書いてくれるだろう。それは読むのが難しい本になるかもしれないが、この芝居なら大丈夫だ。

 ところでこのタイトル、イエスはYesであってJesusではない。この両者が同じ表記になるのは恐らく日本語だけなので、偶然が産んだ皮肉のようだ。

2010/05/29-19:00
燐光群「ザ・パワー・オブ・イエス」
精華小劇場/当日券3600円
脚本:デイヴィッド・ヘアー
訳:常田景子
演出:坂手洋二
出演:藤井びん/鴨川てんし/川中健次郎/猪熊恒和/大西孝洋/田中茂弘/John Oglevee/杉山英之/伊勢谷能宣/西川大輔/鈴木陽介/橋本浩明/中山マリ/南谷朝子/松岡洋子/樋尾麻衣子/安仁屋美峰/渡辺文香/桐畑理佳/横山展子/矢部久美子/根兵さやか
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A級Missinglink「蒼天、神を殺すにはいい日だ」

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 11月に上演される予定の同名の本公演に向けたトライアウト公演。約1時間の小編。ネタバレしてよいものかどうか不明なので内容は省略する。登場するのは、中東の砂漠でNPO活動に従事していた青年と幼馴染みたち、青年の現地での同僚、日本に残る妹、そして子供の頃に出会った神を名乗る不思議な人物。

2010/05/29-14:00
A級MissingLink「蒼天、神を殺すにはいい日だ」
ウイングフィールド/当日券1500円
作・演出:土橋淳志
出演:横田江美/松原一純/細見聡秀/阪田愛子/吉田圭佑/渡辺健太郎
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2010年05月28日

月曜劇団「あたらしい凹凸」

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 三姉妹の話。長女はケータイ小説家で次女は元看護師というのが三女の妄想らしいが、お菓子の国の王女は倒れていた記憶喪失の男を治療するモグリの医者の助手が悪い魔女なのを写真に撮っている王様はルーピー、‥‥というカオスな作品はどの筋が本当でどの部分が妄想なのかも結局答があるのかどうか。

 普通ならなんらかの説明をつけたくなりそうなものだが、投げっぱなしで何となく幸せそうな結末に引きずり込む。こういう作品を書ける西川さやかの頭の中はカオスなのか実は計算づくなのか、とても不思議。今回はちょっと政治ネタっぽい表現が多くてハラハラしましたが、すべてカオスに飲み込んでいく勢いがあります。

2010/05/28-19:30
月曜劇団「あたらしい凹凸」
in→dependent theatre 1st/当日券2500円
脚本:西川さやか
演出:上原日呂
出演:上原日呂/西川さやか/ヤマサキエリカ/うべん/大沢秋生/河上由佳/藤井雅/山田将之
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2010年05月26日

イキウメ「プランクトンの踊り場」

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例えば、
私は空の箱を指差し、
その中にシュークリームが5つ入っていますと言う。
「どうぞご自由にお食べください。」
彼は何の疑いもないように、箱に手をかける。
もしその中にシュークリームが無いとしたら、
それは疑り深い彼のせいだ。

例えば、
目をつぶって髪を洗っていると、何かの気配を感じる。
狭いユニットバスの中、私の他にもう一人いるような気がする。
一人? 心の中でそう言った瞬間、気配は人の形になる。
濡れた黒髪、青白い肌、女、
私の中の紋切り型なイメージが、その幽霊を具体的に彩っていく。
幽霊? そう言った瞬間その人は幽霊以外の何ものでもなくなってしまった。
私の記憶から引き出されたその幽霊は、
私が目を開くのを待っている。
思い込みがかたちになる、
記憶の踊り場。
(チラシより)

 イキウメの観劇は3回目。そろそろこの劇団のカラーが分かってきた気がする。基本的にはSFとオカルト(あるいはファンタジー)の中間的な設定だが、描いているのはその世界で生きている人々の心と挙動だ。

 設定は面白いがどこかで観たような気もする(映画「スフィア」かな?)。人々が翻弄される様子も滑稽かつ興味深いが、ラストがどうも歯切れが悪かった。あれれ?それはどうするの?というところで切っており、その先を考えているのかどうか疑わしく感じた。

 ただ途中の成り行きや細かいネタはとても面白く、単純に楽しめる作品でした。

2010/05/26-19:00
イキウメ「プランクトンの踊り場」
HEP HALL/当日券4000円
作・演出 : 前川知大
出演 : 浜田信也/盛 隆二/岩本幸子/伊勢佳世/森下 創/窪田道聡/緒方健児/安井順平/大窪人衛/加茂杏子
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2010年05月23日

遊劇体「多神教」

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1927年(昭和2年)、『文藝春秋』に発表。
山中の社、奥の院にて──。丑の刻参りの女・お沢が捕えられ、神職や村人たちに辱められている。
すると、御堂正面の扉が開き、秘密の境より気高く世にも美しき媛神が現れた。
(チラシより)

 主人公の女は、自分を裏切った男に対して丑の刻参りで呪いをかけようとしていた。それは人に見られたら成就しないと言われているが、最後の日に見つかって捕えられてしまう。失意のどん底でなぶりものにされようとするその時、女の神様が降臨する。

 その後の展開は痛快そのもので、男の自分でもスカッとするのだから女性ならなおさらだろう。男たちを尻目に媛神は女の願いをかなえてやる。止めようとする神職たちを軽くあしらい、倫理も正論も知ったことではないと開き直ってしまう。でも、ちゃんと最後はこんなこともうしてはいけないと諭して帰っていく。

 この作品に「多神教」というタイトルを付けたセンスも秀逸だ。たしかにこれは多神教だからこそ許される、神の甘さだ。神とは言っても元は石垣の人柱になった娘のようなので、キリスト教の神のような創造主ではない。だからとても人間臭いが、それがまた救いとなる。

 さて、泉鏡花作品の全編上演を目指している遊劇体だが、この作品はこれまで他に上演された例が見つからず、恐らく初演になるとのこと。

 大正時代に作られた五條楽園歌舞練場という風情ある建物は、昭和初期に書かれた本作にはぴったりだった。エアコンがないので天候によってはかなり暑い時もあったようだが、私が観に行った日は天気が悪かったおかげで室内は涼しく快適だった。

2010/05/23-14:00
遊劇体「多神教」
五條楽園歌舞練場/当日券2800円
作:泉鏡花
演出:キタモトマサヤ
出演:大熊ねこ/坂本正巳/こやまあい/村尾オサム/戸川綾子/あた吉/条あけみ/氏田敦/中田達幸/誉田万里子/長谷川一馬/赤城幻太/濱奈美/久保田智美/池川辰哉/塚本修
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2010年05月22日

売込隊ビーム「トバスアタマ」

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我が子に父親と同じ名前を付けた。
父親はこの子が生まれたときから不在。
最近は子供の横顔があいつに似てきて。
「動物を飼いたい」と
言ってきたときにひっぱたいた。
手を上げたのはそれっきり。
最近はダンス教室か
歌謡教室に通おうと思っています。
(チラシより)

 12年前の作品の再演とのことですが、当然私は初見。扱っているテーマは児童虐待ですが、報道される事件は12年前より増えているのではないでしょうか。最近は子供を殺したなんて話も珍しくなくなっているくらいですから。

 しかし売込隊ビームですから単純な社会派劇にするはずもなく、かなり実験的な描き方をしています。普通のドラマはひとつの事件に焦点を当ててなんらかの結末にたどりつくものですが、この作品では結論とか結末なんてのは提示されない。そしてひとつの事件もその周辺の中にあり、別の出来事もあれやこれやと起きている。それらの事件もまた、結末を提示されることなく投げっぱなしに近い。

 現実はそういうものだという見方を示しているのだと思いますが、果たして芝居としてそういう描き方が意味を持つかどうかはわかりません。物足りないと思う人も多いのではないでしょうか。ある意味これは既存の演劇スタイルに対するアンチテーゼと捉えることもできるでしょう。私としては、嫌いじゃないけど微妙でした。

 細かい話ではラストシーンの音響、沈黙の使い方が上手で作品を引き締めていたと思います。

2010/05/22-18:00
売込隊ビーム「トバスアタマ」
ABCホール/当日券3300円
作・演出:横山拓也
出演:山田かつろう/三谷恭子/宮都謹次/杉森大祐/草野憲大/武田桃子/辻るりこ/田渕法明/橋爪未萌里/真心/ともさかけん/楠見薫
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2010年05月15日

ムーンビームマシン「ドロテアノヒツギ」

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そして、童話は盗まれた ──
童話泥棒の罪で封印されたはずの魔女ドロテアが
百年の眠りから醒め、グリムランドの童話が狂いはじめた!

森でお菓子の家をみつけるはずが、ドロテアの復活を目撃してしまった
ヘンゼルとグレーテルは、自称魔法使いのピフ・パフ・ポルトリーと共に
魔女を倒すべく<金の紡ぎ針>を探す旅にでる。

フェアリーテラーと呼ばれる伝説の大魔法使いと
魔法のキャンディで人を惑わす世紀の魔女。その戦いに巻き込まれるのは
わがままな白雪姫に、ガラスの靴が合わない灰かぶり?!

グリム童話の登場人物たちが巻き起こす大冒険!
だけど、こんなグリム童話ありえない?!
世界で愛され続けるおとぎ話たちが今、ひとつの物語になる!!
(チラシより)

 内容は上記の通り。ドロテアによってじわじわと童話が狂っていくのを止めるために奔走するわけですが、狂い方が良くできていました。おなじみのキャラクターばかりなので取っつきやすく、観劇初心者にもお勧めできる、笑いと涙がバランスよく作り込まれた芝居になっていました。見た目はちょっとコスプレ芝居っぽいですが。

 印象に残るシーンも多数ありましたが、中でも灰かぶり(シンデレラ)を探す王子の天然ぶりがものすごく良い味を出していました。

2010/05/15-15:00
ムーンビームマシン「ドロテアノヒツギ」
芸術創造館/当日券2800円
脚本・演出:Sarah
出演:梅田喬/中嶋久美子/Sarah/和田雄太郎/寺本奈央/内海麻有/大塚宣幸/瀬口昌生/松浦由美子/山川優子/黒崎達也/今池由佳/Magician/魅優
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2010年05月08日

刑事が星

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──誰が犯人か?
(チラシより)

 観劇直前に食事をしてしかも疲れていたため、観劇中は激しい睡魔に睡魔に襲われてしまった。これが場面転換があったり激しい展開があればまだしも、ワンシチュエーションの会話劇である。はっきり言ってかなり寝てた。

 「誰が犯人か?」というキャッチコピーがあったので推理小説のように犯人あてをする作品かと思ったが、そういうわけでもなかったようだ。もしかしたら私が寝てる間にそういう展開があったかもしれないが、基本的には吉本新喜劇のような雰囲気だったと思う。

 これ以上は書けません。申し訳ありませんでした──

2010/05/8-19:30
刑事が星
HEP HALL/当日券3800円
作:森澤匡晴
演出:大塚雅史
出演:お〜い!久間/浅野彰一/中村真利亜/内場勝則
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2010年05月01日

子供鉅人「たーおーれーるーぞー」

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みんな必死です 柱や壁にしがみつき ののしり合うわ ケンカするわ 愛を告白するわ 心の傷をなめあうわ 生きているのがばからしくなるわ 死ぬのもばからしくなってくるわ なぜなら 家がたおれそうだからです
(チラシより)

 子供鉅人のホームグラウンド、谷町六丁目のポコペンでの公演。築100年という長屋の一室は、実際倒れてもおかしくないような風体です。ここはいつ行っても心がなごむ。

 女の子の誕生日を祝おうと仲の良い友達が集まって来る。基本的に仲良しなんだけどちょっと苦手なタイプとか、ヨガとかオタクとか実家の店の手伝いとかホームページに毒のある日記書いてるとか、いい感じの若者たちがきゃーきゃー言ってると、家が揺れはじめる。

 そこから先はまさにたーおーれーるーぞーな状況で必死になって家を支えるわけですが、四畳半ですから、壁際に観客が座っています。もうほとんど観客を押しのけるような勢いで壁や柱を支えます。しかも支えながら愛の告白とかしはじめて、見てる方は楽しくて仕方ありません。

 家が揺れるときは一緒になって揺れようかとホントに思いましたが、他の観客が揺れてなかったのでやめてしまった小心者です。

2010/05/01-15:30
子供鉅人「たーおーれーるーぞー」
ポコペン/当日券2000円
作・演出:益山貴司
出演:BAB/益山寛司/蔭山徹/小中太/キキ花香/益山貴司

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