源頼朝(みなもとのよりとも)の怒りを買った源義経(みなもとのよしつね)一行が北陸を通って奥州へ逃げる際の加賀国、安宅(あたか)の関での物語。義経一行は武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)を先頭に山伏(やまぶし)の姿で通り抜けようとするが、関守(せきもり)の富樫左衛門(とがしのさえもん)の元には既に義経一行が山伏姿であるという情報が届いていた。焼失した東大寺再建のため勧進を行っていると弁慶が言うと、富樫は勧進帳を読むように命じ・・・。(チラシより)
まあ勧進帳ですから粗筋を書くまでもなく、歌舞伎の中の歌舞伎というほど代表的な作品です。と言いながら本当の歌舞伎で観たことはありません。
歌舞伎のように現代とまったく異なる時代に書かれた戯曲を、現代的な演出で見せてくれるのはとても面白い。特に良かったのは、決してふざけたパロディではなく、あくまでも演出の仕方が違うだけで中身はちゃんと勧進帳であるという点だ。もちろん本物の歌舞伎役者のように幼少からひたすら修練してきた役者ではないのだから、技術的には届いていないだろうが、私のような観客には特に問題ないレベルだ。
観客の文化的背景がまったく変わっているのだから、昔通りの演出を続ける“本物”の歌舞伎というのは、それが観客に及ぼす感動という意味ではむしろ変わってしまっているはずだ。だから、観客の得る感覚を昔通りにしようと思ったら、演出は現代風に直さなければならないと思われる。
例えば長唄をテクノに置き換えるのは、書かれた当時の観客にとっての長唄と現代の観客にとってのテクノが同じような位置を占めているなら正しい演出だと言えるのではないだろうか。実際にそうなのかはわからないが。
とはいえ、そもそも感動するポイント自体が変わっている以上、完全に現代化することは不可能であり、ある程度は昔ながらのやり方を踏襲する必要があるだろう。アフタートークで木ノ下氏が語っていたことはそういう意味に捉えられた。その辺りのバランス感覚はとても良かったと思うので、次回作も期待したい。
2010/05/30-15:00
木ノ下歌舞伎「勧進帳」
アトリエ劇研/前売券2300円
監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生
出演:亀島一徳/重岡漠/清水久美子/福原冠/John de Perczel