2010年02月28日

極東退屈道場+水の会「家、世の果ての……」

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はな子が犬を連れておつかいにでかけると「スーパー不夜城」が見下ろしていた。
うすくれないの地図を頼りに、人混みをかき分けかき分け、道行きを急ぐ一人と一匹。
やがて、トーキョーが昨日と同じメロドラマの中に暮れるころ、錆止めの朱い階段上のアパートから、百合子、さらわれる。
残された紙切れ一片。
「家、世の果ての……」
辺境にある氷漬けの食肉工場で少女はつぶやく。

「ソレハ ユルギナキ 全体、絶対的ナ広ガリヲ持チ 把握ヲ許さず、息ヅキ、疲レ、蹴オトシ、──ソコデハ 全テガ置キ去リニサレテ、関ワリアウコトナシニ ブヨブヨト 共存スルノミ。個ハ辺境ニアリ、タダ 辺境ニアリ、楽シミハアマリニ稚ナクテ ザワメキノミガ タユタイ続ケル ──コンナ夜ニ 正シイナンテ事ガ 何ニナルノサ。」(後略)
(チラシより)

 伏線とも不条理とも思える、何か幻影のような空気の中で重層的に展開するため、ほぼ最後まで夢見心地の観劇となった。集中力が途切れそうになる(というか途切れた)ことが何度かあったが、奇妙に心地よい観後感が得られた。

 後でチラシをよく読んだら、初演は30年も前とのこと。これは意外だった。演出によってそうしたのかもしれないが、観ている時はそんな古さは全く感じることがなく、新作だとばかり思っていたのだ。

 ここで描かれている消費社会とか物質文明というのは、多分この30年でますます強化されたのだと思う。ある意味、そこで提起された問題はもはや問題と感じられなくなる程度に根を張ってしまったのではなかろうか。だからこそ私はそこで安心してウトウトできたのだ。

 作者が聞いたら嘆くだろうか。すでに他界されたとのこと、残念です。

2010/02/28-15:00
極東退屈道場水の会「家、世の果ての……」
アイホール/前売券2500円
作:如月小春
演出:林慎一郎
出演:原真/得田晃子/井尻智絵/北村守/うべん/後藤七重/片桐慎和子/小坂浩之/小中太/猿渡美穂/中元志保/福田尚子/安武剛
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2010年02月27日

ロヲ=タァル=ヴォガ「SILVER 30」

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 太宰治『駆込み訴え』を軸として、太宰治自身の姿を描いている。『駆込み訴え』はイスカリオテのユダがイエスを裏切った時の独白として書かれている短編で、イエスを非難したかと思えば誰よりも愛していると語るなど、激情にかられ興奮した様子が伝わってくる。本作では劇中で大宰が駆込み訴えを朗読する場面がある(つまりユダのセリフを言う)が、どちらかというとイエスのような人物として描いていた。

 幻惑的な舞台美術と演出に惑わされて、物語の筋が解りにくくなってしまったような気がする。別に筋が重要というタイプの芝居ではないと思うので問題はなさそうだが、しかし途中で集中力が途切れることがしばしばあった。

 余談だが当日はロビーで子供鉅人のメンバーがカフェを開いていた。こういう試みはとても良いと思う。

2010/02/27-19:00
ロヲ=タァル=ヴォガ「SILVER 30」
BLACK CHAMBER/当日券3200円
脚本・演出・音楽:近藤和見
出演:草壁カゲロヲ/ハ・スジョン/赤井正宏/足立昌弥/ゆかわたかし/岩橋功/松嵜佑一/横山直樹/ふくだまさと/袋坂ヤスオ
演奏・音楽:波多野敦子
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MONO「赤い薬」

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ウサギが跳ねてる……。
この薬のせいなのか?
スケールの小さい大脱走喜劇!!
(チラシより)

 それぞれ身寄りもなく、生活費にも事欠くありさまの情けない男たちが、高額報酬目当てで薬の実験台になるため、山奥の施設で共同生活している。しかし今回の薬はなにかおかしい。このままでは自分たちはどうなってしまうのか……?

 現実にそういう施設があるのかどうか知りませんが(多分ない)、シリアスにしようと思えばできる危ない設定で上質なコメディになっていました。単にゲラゲラ笑わせるだけでなく少々の涙も含ませるところがMONOの得意なスタイルでしょう。

 今回も、登場人物達の背景は笑えない要素がたくさんありました。けれどそんなものを吹き飛ばす勢いで笑いに変えてしまっているところが頼もしい。上っ面じゃないコメディです。

 医者役を演じた金替さんの演技がまた素晴らしい。あれを観ただけでも価値があったと思います。

2010/02/27-14:00
劇団MONO「赤い薬」
HEP HALL/前売券3800円
作・演出:土田英生
出演:水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生/山本麻貴
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2010年02月20日

兵庫県立ピッコロ劇団「真田風雲録」

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慶長5年(1600年)、関ヶ原の戦いで出会った落ち武者と戦場泥棒の浮浪児たち。むささびのお霧(霧隠才蔵)、離れ猿の佐助(猿飛佐助)、ずく入の清次(三好清海入道)……。のちの真田十勇士である。慶長19年(1614年)、徳川対豊臣の大坂の陣が勃発、知将、真田幸村とともに劣勢の豊臣方として参戦する真田十勇士。活躍の場を求めて必死に戦う彼らだったが……。
(チラシより)

 初演は1962年の作品。あらすじは上記の通りですが、学生運動や東西冷戦など当時の世相を反映した表現になっています。この点を知らずに観劇したので「なんだか活動家みたいな言い回しだなあ」と思っていて、後から解説を読んで納得しました。

 私が観に行く劇場としては最大級の会場で、さすがに巨大な舞台装置を使った演出は迫力がありました。大きい場所では大きいなりの手法があるのですね。出演者の数は40名以上と多いものの、主要登場人物はわかりやすく、素直に楽しむことができました。

2010/02/20-18:30
ピッコロ劇団「真田風雲録」
兵庫県立芸術文化センター/前売券4500円
作:福田善之
演出:内藤裕敬
出演:東龍美/荒谷清水/井田武志/今井佐知子/今仲ひろし/上田一軒/大塚雄也/岡田力/樫村千晶/加藤崇/加門功/川原田樹/木下出/木村保/杏華/坂上洋光/坂口修一/鈴村貴彦/角朝子/孫高宏/橘義/田米克弘/道幸千紗/中川義文/濱崎大介/原竹志/平井久美子/風太郎/穂積恭平/堀江勇気/松田卓三/森田真和/森好文/八百谷匡洋/や乃えいじ/山田裕/吉江麻樹/和田哲也/和田友紀
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2010年02月19日

精華小劇場製作作品「イキシマ」

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目を凝らせば見える 耳をすませば聞こえる
繊細にして大胆な 究極の“室内劇”
(チラシより)

 精華小劇場による製作作品として上演された本作は、脚本にマレビトの会の松田正隆、演出に維新派の松本雄吉を招き、出演者も実力派ぞろい。前評判も高く、非常に意欲的な企画だったのは確かだ。

 しかし私は、この作品をはっきり否定したい。賛否両論と聞くが、私は否に一票を投じる。こんな作品を発表することに意義があると本気で信じているなら、精華小劇場に未来はないと思う。なぜなら、この作品は何も成し遂げていないからだ。

 この作品は何を目指していたのか。チラシには以下のような文言がある:
かつて、舞台芸術はさまざまな芸術とつながっていた。美術、写真、音楽、または哲学や社会学など、お互いが緩やかに影響を与えあっていた。しかしそれぞれの分野で専門性が高くなり、お互いに越境することが難しくなった。今、芸術作品が普遍性を取り戻すためには、専門性を高く保ったまま芸術の分野を飛び越え、広い視野で社会を捉えることが必要となっている。舞台芸術作品が、遠い存在になってしまった現在、本作品は普遍性を取り戻し、現代社会を照射する作品となることを目指している。
 「現代社会を照射する」とはどういう意味なのか不明だが、そもそもこの試みと作品には決定的に欠けている点がある。それは、作品によって表現したかったコトは何か、だ。

 芸術というのは、手段であって目的ではない。美術も音楽も詩も演劇も、それによって表現したい「何か」が存在するから価値があるはずだ。もしそういう「何か」がないなら、それは“芸術”ではなく単なる“技術”だ。優れた芸術作品は、観賞者に何らかの変化を与える。さもなくば存在価値がない。松田正隆と松本雄吉は本作で観客にどのような変化をもたらしたかったのだろうか。

 少なくとも私にはイキシマから何も伝わってこなかったし、何を伝えようとしているかも読み取れなかった。私に見る目がないだけかもしれないが、見る目がある人にしか伝わらないなら、それこそ「遠い存在」と言うものではないか。

 この作品を構成している個々の“部品”はどれも上質だったと思う。役者はいい演技をしていた。舞台美術にも圧倒された。映像も音も光も魅力的だった。しかし全体像が意味不明なのだ。いわば、黄金のタイヤとプラチナのハンドルを付けた自動車のような印象。

 比較的よく劇場へ通っている私でさえこの調子なのだ。もし舞台芸術を観たことのない人がイキシマを観劇したら、どう感じるだろう。ほとんどの場合、「なんだかスゴイけど意味不明」となるのではないか。それで舞台芸術はどんな価値を持つと言えるのだろうか。演劇は現代社会にとって必要なものだと主張することができるのだろうか。

 神との対話を目指すなら客席は不要だ。現代社会における舞台芸術の役割と可能性は何か。社会はそこに何を求めているのか。説明はいらないが、次の作品では納得できる回答を示してほしい。

2010/02/19-19:00
精華小劇場製作作品「イキシマ」
精華小劇場/前売券3500円
テキスト:松田正隆
演出:松本雄吉
出演:芦谷康介/大熊隆太郎/岡嶋秀昭/沙里/金乃梨子/高澤理恵/速水佳苗/宮川国剛/宮部純子/山下残
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2010年02月11日

dracom Gala公演「対局時計」

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拘置所の独房に、喋り続けている男がいる。しかし、それはほんとうに喋っているのかどうか定かではない。
そして、そんな彼の隣の独房にひとりの男が新たに入った。そこで始まったふたりの会話は、思わぬ方向で盛り上がっていく……
(チラシより)

 簡素な舞台で戯曲は難解。恐らく役者の力量が相当に必要とされる作品だと思われる。主役はとても良かった。モノローグなのかダイアローグなのか判然としない(させない)語り方が逆に観客を取り込んでいく。

 物語の筋はいまいちわからない。状況はだいたい飲み込めるのだが、結局なんだったの?という疑問が残った。答はあるかもしれないし、ないのかもしれない。しかし、独特の雰囲気を醸しだしつつ延々と喋り続ける男の様子が良かったし、観ていて飽きない。多分、そういう味わい方で良い芝居なのだろう。

 “良く分からないけど面白かった”というタイプ。個人的には嫌いじゃないです。

2010/02/11-17:30
dracom「対局時計」
ウイングフィールド/当日券2300円
作・演出:筒井潤
出演:穴見圭司/筒井潤/村山裕希/神藤恭平
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2010年02月06日

劇団鹿殺し「スーパースター」

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 子供の頃から、スーパースターに憧れていた。でも、僕にはなれないことも解っていた。スーパースターになる人は星を持っている。僕の歩んできた人生の中にも星を持っている者はいて、彼らは僕と違った。『才能』だとか、『環境』だとかで言い訳できるものではなく………星を持って生まれたとしか言いようがない。今、彼らが何をしているかは知らない。大人になって星を手放してしまった者もいるだろう。僕はというと、相変わらず星を掴めないかと試行錯誤している。僕は一生悩み続けるドン・キホーテなのだ。
(チラシより)

 劇団鹿殺しの10周年記念公演第一弾。私がこの劇団の公演を観るのは「僕を愛ちて。」「ベルゼブブ兄弟」に次いで3回目。

 結論から言うと前2回に比べてインパクトは薄かった。期待が強すぎたのかもしれない。もちろん、ほとんどの他劇団に比べたらパワフルさは極めて高い。相変わらずの“アツさ”だ。舞台装置もすごかった。三階建てのアパートに見立てたセットを使った演出は客席を圧倒していた。

 ただ、描かれているテーマは兄弟と家族の確執みたいなもので、前に観た二作品と非常によく似ている。それがこの劇団あるいは作家の得意分野なのかもしれないが、私の中ではマンネリ感が生まれはじめているのだ。たまたま私が観た作品がそうだっただけかもしれないが、この劇団のパワーが発揮できるテーマは決して限定されるものではないはずなので、もっと違った手法も観てみたい。

2010/02/06-19:00
劇団鹿殺し「スーパースター」
アイホール/当日券3900円
作:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:李
出演:オレノグラフィティ/菜月チョビ/丸尾丸一郎/山岸門人/橘 輝/傳田うに/坂本けこ美/
高橋戦車/山口加菜/西田夏奈子/森貞文則/高木稟/政岡泰志/狩野 淳/田中蕗子/田中瑛祐/千田美智子/中本章太/和田真季乃
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