
はな子が犬を連れておつかいにでかけると「スーパー不夜城」が見下ろしていた。(チラシより)
うすくれないの地図を頼りに、人混みをかき分けかき分け、道行きを急ぐ一人と一匹。
やがて、トーキョーが昨日と同じメロドラマの中に暮れるころ、錆止めの朱い階段上のアパートから、百合子、さらわれる。
残された紙切れ一片。
「家、世の果ての……」
辺境にある氷漬けの食肉工場で少女はつぶやく。
「ソレハ ユルギナキ 全体、絶対的ナ広ガリヲ持チ 把握ヲ許さず、息ヅキ、疲レ、蹴オトシ、──ソコデハ 全テガ置キ去リニサレテ、関ワリアウコトナシニ ブヨブヨト 共存スルノミ。個ハ辺境ニアリ、タダ 辺境ニアリ、楽シミハアマリニ稚ナクテ ザワメキノミガ タユタイ続ケル ──コンナ夜ニ 正シイナンテ事ガ 何ニナルノサ。」(後略)
伏線とも不条理とも思える、何か幻影のような空気の中で重層的に展開するため、ほぼ最後まで夢見心地の観劇となった。集中力が途切れそうになる(というか途切れた)ことが何度かあったが、奇妙に心地よい観後感が得られた。
後でチラシをよく読んだら、初演は30年も前とのこと。これは意外だった。演出によってそうしたのかもしれないが、観ている時はそんな古さは全く感じることがなく、新作だとばかり思っていたのだ。
ここで描かれている消費社会とか物質文明というのは、多分この30年でますます強化されたのだと思う。ある意味、そこで提起された問題はもはや問題と感じられなくなる程度に根を張ってしまったのではなかろうか。だからこそ私はそこで安心してウトウトできたのだ。
作者が聞いたら嘆くだろうか。すでに他界されたとのこと、残念です。
2010/02/28-15:00
極東退屈道場+水の会「家、世の果ての……」
アイホール/前売券2500円
作:如月小春
演出:林慎一郎
出演:原真/得田晃子/井尻智絵/北村守/うべん/後藤七重/片桐慎和子/小坂浩之/小中太/猿渡美穂/中元志保/福田尚子/安武剛