
深い海の彼方の底には、竜宮城の乙姫様の弟である貴公子が住む別荘がある。そこは果てしなく美しく豊富な宝で満ちた理想郷だ。その海神の御殿へ、漁業で細々と生計を立てていた漁師の娘が輿入れにやってくる。漁師は自分の欲望と引き換えに、娘を売り渡したのだ。(チラシより)
鏡花独特の幻想美に加え、鏡花思想の一面というべき痛烈な社会批評は、21世紀を生きる私たちに向けて今もなお、照射される。
1913年「中央公論」に発表。初演は発表後42年、鏡花没後16年目の1955年久保田万太郎の改補演出によって歌舞伎座にて上演された。戯曲オリジナルによる舞台化は、1974年芥川比呂志演出(劇団雲)による上演まで待たねばならなかったようだ。
遊劇体は泉鏡花の全作品上演に挑戦しているとのこと。前回は精華小劇場の広い空間で幻想的な「山吹」を観劇して感銘を受けましたが、今回はウイングフィールドの閉じこめられた空間に海底の宮殿が構築されていました。どうやるのか興味津々で臨みましたが、歌舞伎を思わせるような立ち回りと発声、電気的な音響効果、ガラスの舞台装置を重ねることで実現していました。
前回に比べて客席と舞台があまりに近いため、幻想的な空間というにはやや生々しすぎる印象もありました。もう少し広い場所、前作と同様に精華小劇場くらいがちょうど良いのではないでしょうか。
2009/06/13-14:00
遊劇体「海神別荘」
ウイングフィールド/前売券2500円
作:泉鏡花
演出:キタモトマサヤ
出演:大熊ねこ/坂本正巳/こやまあい/村尾オサム/猪野明咲/戸川綾子/条あけみ/南田吉信/朝平陽子/高澤理恵/誉田万里子