現代の日本、
アイドルを目指し上京した青葉タエ。
けれどチャンスに恵まれず、とうとうAVデビューが決まってしまった。
そんなさなか、デビュー当時からタエを応援していたアイドルオタクが控室を訪れる。彼の手に光るのは包丁。
登場するのは不幸な幻覚症状に悩まされる8人の男女。
目をくりぬかれたクマの人形と、太陽を求めて曲がりくねった木。
誰が最初に目を醒まし、その環を抜けて歩き出すのか。
タエが思い出すのは、あどけない幼女の歌声と、やさしく笑う母の声。
しっかりとした手触りに、ほんとはみんなが憧れている。
(チラシより)
ひとつの戯曲を3つの団体が上演するという企画。非常に興味深く、勉強になった。
舞台制作に携わったことがない自分には、戯曲と演出がどの程度の比重を持つのか知る機会がなかった。特に小劇場演劇では戯曲と演出を同一人物が担う場合も多く、なおさら両者の区別がつかない。そのため、こういう企画は是非一度やってほしかった。いわば夢がかなったとも言うべき体験だ。
チラシには「3人の演出家がそれぞれ演出・上演いたします」とあるが、演出家だけでなく出演者も舞台装置も全然違う。出演者の人数すら違うのだ。
欄干スタイルは7人の役者。戯曲上は8人の登場人物がいるので、ここはかなり戯曲を忠実に演じていると感じた。チラシやパンフに役者と役柄の対応が書かれていないので名前がわからないが、おばあさん役などを演じた女優が非常に強い存在感を放っていた。
このしたやみは4人だが、基本的には2人(広田ゆうみ・二口大学)がメインで他の2人が補佐するようなスタイルだ。ここはメイン2人の技量に大きく依存した演出で、多彩な役柄を演じ分ける両者の達者な芸を見物しているような印象を受けた。特に外国語(?)でやり取りするシーンは素晴らしかった。
わっしょいハウスは3人。同じ人物を交代で演じるなど前衛的な趣向を凝らした演出が目に付いた。衣装も普段着のような感じで、舞台装置もほとんどない。実は最初に観たのがこの団体だったのだが、他の二つを観てからの方がより楽しめたような気がする。
約1時間の芝居を30分の休憩を挟んで3つ連続観劇、合計4時間かかったが、不思議と長くは感じなかった。企画が企画なのでどうしても評論家的な視点で観てしまったのは否めないが、どれが良かったということはなく、「演出の力」をまざまざと見せつけられた。
もちろん役者の力もあるのだろうけれど、全体の枠組みを決定する演出家がこれほどまで影響力を持つことは恥ずかしながら知らなかった。いや、知識として知ってはいたが実感していなかった。
たとえ古典戯曲でも、同じ地域で別の劇団が上演した作品をあまり近い時期に使うのは避けるだろう。そのため観客にしてみれば、このように演出の違いを体験することは難しい。けれど、同じ演出家が別の戯曲を近い時期に同じ地域で上演するのはなんら珍しくないのだから、逆があってもいいのではないだろうか。
2009/02/14-16:30,18:00,19:30
欄干スタイルプロデュース「人は死んだら木になるの」
アトリエ劇研/フリーパス券3000円
作:山口茜
欄干スタイル
演出:鈴木正悟
出演:豊島由香/長沼久美子/宮部純子/森上洋之/片山奈津子/仲野毅/小松三久
わっしょいハウス
演出:犬飼勝哉
出演:浅井浩介/中村みどり/犬飼勝哉
このしたやみ
演出:山口浩章
出演:二口大学/広田ゆうみ/清水光彦/川津かなゑ